血糖値が急上昇する「花粉症ステロイド治療」…糖尿病予備群も注意

副作用として血糖値が上昇するケースも
副作用として血糖値が上昇するケースも

 花粉症の季節がやって来た。街中や電車内で鼻をグズグズする人を見かけることも。この季節は花粉症の症状を和らげるために注射を受けたり、薬を噴霧したりする人もいるはずだ。しかし、その中には副作用として血糖値を急上昇させ、糖尿病の人がインスリン注射が必要になったり、糖尿病予備群の人が糖尿病治療をスタートせざるを得なくなるケースもある。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に話を聞いた。

「いまだに“注射一発で花粉症の症状が劇的に改善される”と言われ、『ステロイド筋肉注射』(ケナコルトA)を受けている人がいますが、要注意です。たしかにステロイドは抗炎症作用があり、1回注射すると1~3カ月程度効果が持続する。そのため、ワンシーズン乗り切れる魅力的な治療法に見えます。しかし、ステロイド筋肉注射にはさまざまな副作用があります。そのひとつが血糖値の上昇です」

 ステロイドはインスリンに反応して血糖を取り込む筋肉や脂肪組織の機能を抑制し、肝臓から新たな糖をつくり出し分泌させる。また、インスリンの分泌を抑制し、食欲を高めるなどして血糖を急上昇させるリスクがある。

 血糖値が高めの人、肥満気味で2型糖尿病のリスクのある人らは、糖尿病(ステロイド糖尿病)を発症したり、糖尿病の服薬治療中の人が重症化してインスリン注射を余儀なくされるケースが報告されている。

 実際、糖尿病の服薬治療中の50代の女性は、普段と異なる強い倦怠感、眠気に襲われた。周囲から「顔が赤い」「丸顔になった気がする」と言われて来院。辛院長が調べたところ、それまで7%台にコントロールされていたHbA1c(直近1~2カ月の血糖の平均値)が10%を超えたという。原因はケナコルトAだった。

「この患者さんは数年前に突然、花粉症を発症し、あまりに症状がひどかったので友人に相談。ケナコルトA注射のことを聞いて、当院とは別の自由診療の医療機関で打っていたようです」

 辛院長はこの女性に対して、投薬治療からインスリン注射療法に切り替え、しばらくして血糖値が安定したのを確認した後に投薬治療に戻したという。

 ステロイド薬は効果が高い半面、強い副作用がある。そのため、使用に際しては必ず副作用の説明をすることになっている。しかし、この女性は副作用の説明を受けた記憶はなかったという。

■飲み薬でも注意が必要

「勘違いしてはいけませんが、ステロイド薬自体は非常に有効性の高い薬剤で、喘息やアレルギーの薬など幅広い用途があります。なのになぜステロイド入りの筋肉注射薬による花粉症治療が問題になるかと言えば、ステロイドが体外に排泄されず長期間体内に残ると副作用が出やすくなるからです。逆に喘息の場合は、気管支への噴霧によって少量を、場所を限局して投与していますし、小児のアレルギーにしても、段階を踏んで使用することで全身に影響が及ばないようにしているのです」

 ステロイドの副作用には、糖尿病の発症、重症化以外に、注射した皮膚が陥没したり、感染症にかかりやすくなったり、副腎機能の不全が起きたり、高血圧や緑内障のリスクが高くなるなど多岐にわたる。

 気になるのはステロイド糖尿病は注射だけでなく、飲み薬などでも長期にある程度の量を使用し続ければ発症する可能性があることだ。持病の薬の中には自分では気づかないだけでステロイドが含まれているケースもゼロではない。そのうえ、花粉症治療にステロイドを使えば、ステロイド糖尿病を発症することになりかねない。

「実は一般診療の内科や耳鼻科の診療所で花粉症の薬をもらい、その内服薬が抗ヒスタミンに加えてステロイドが含まれている合剤であるケースもよく見受けられます。内服薬の成分をよく確認しないと、高血糖になり糖尿病が悪化したり、予備群の人が糖尿病を発症したりといった、ステロイドの注射と同様の危険があります。もし糖尿病のある方は、それがわかったら薬を中止してください。また花粉症を治療する際は、医師にハッキリと糖尿病もしくは予備群であることを告げることが大切です」

 最近は花粉症の治療薬も進化しており、眠気が出ないさまざまなタイプも発売されている。それでもどうしてもステロイドが必要であれば、かかりつけの医師や薬剤師らによく相談することだ。

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