「いま、歯周病とさまざまな疾患との関連が指摘されています。たとえば、歯周病の人は糖尿病に罹りやすく、逆に糖尿病の人も歯周病に罹りやすくなります。また、歯周病で出血を起こして血液に歯周病菌が入り込むことにより、血管の壁を肥厚化させ、血管の内部をもろくしてしまう。その結果、血管の狭窄や閉塞といった動脈硬化を起こし、心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが高まります」
こう語るのはアイムスデンタルクリニックの今枝誠二院長である。妊娠している女性が歯周病に罹っている場合、早期低体重児出産のリスクが7倍も高まるという報告まであるそうだ。
一部では、歯周病と認知症との関係も疑われている。
“万病のもと”ともいえそうな歯周病を治療するのにあたって、きちっと歯磨きをしていることが前提になる。食事のたびに歯周病の原因となる歯垢(プラーク)を増やしていたら、治療の効果が期待できないからだ。
「毎食後30分以内に歯磨きをする習慣をつけてください。その際に磨き残しがないよう、1本ずつ歯の表と裏を意識しながら磨き、歯と歯の間はフロスや歯間ブラシを使って歯垢を除去します。そうやって歯を健康な状態に保ち、3~4カ月に1回のペースで歯科クリニックでのメンテナンスを受けていけば、歯周病に罹るリスクは低くなります」(今枝院長)
実際に歯周病に罹ってしまい、歯を支えている歯槽骨が失われ歯の根が露出しているようなケースだと、自由診療による「歯周組織再生療法」が有効な治療手段となる。
「麻酔をかけてから歯茎を切開し、まず付着しているプラークや、プラークが石灰化した歯石を除去します。それから失われてしまった歯槽骨に歯周組織再生材を入れたうえ、縫合を行います。1部分について1回ずつの手術で対応していきますが、1回の手術時間は約1時間です。1回分の治療費は10万~15万円になります」(今枝院長)
ただし、この歯周組織再生療法には限界がある。大半の歯の根が露出しているような重度の歯周病には適さず、それ以上悪化しないようにする手だてしかなくなる。
歯周病が進行するスピードは比較的緩慢で、数年単位で進行することが多い。そのため自覚症状に乏しくなってしまうわけだが、少しでも歯がぐらつくようになったり、歯茎から出血しているのが分かったりしたら、すぐに診察を受けたい。
「10年間、歯周病にも虫歯にもなったことがないという人がいます。でも、いずれも感染症の一種であり、この後の10年間もならないという保証はどこにもありません。毎食後の歯磨きと、保険が利く定期的なメンテナンスで予防ができ、自分の歯で生涯暮らせるようになるのです」(今枝院長) =つづく
▽今枝誠二(いまえだ・せいじ) 2004年、東京医科歯科大学歯学部卒業。23年からアイムスデンタルクリニック院長に。著書に「現役歯科医が警鐘 こんな歯医者に行ってはいけない」がある。
(伊藤博之/ジャーナリスト)