魚ばかりはかえって危ない…「粗食」が高齢者の命を縮める

 もう年だから、あまり食べなくても大丈夫。そう考えている人も多いのではないか。たしかに年をとると活動量が減るから、その分、食欲がなくなるのも仕方がない。しかし、粗食で「低栄養」に陥ると、死亡リスクを高めることになる。

 東京都健康長寿医療センター研究所の調査によると、低栄養と思われる65歳以上の人の死亡リスクは、そうでない人の1.5倍以上も高いという。高齢者の栄養状態の指標である(1)「体格指数(BMI)」(体重÷〈身長×身長〉=20以下)、(2)「アルブミン」(4.0g/dl以下)、(3)「ヘモグロビン」(男性13g/dl以下)、(4)「コレステロール」(160mg/dl以下)が、すべてカッコ内の基準値より低い人は、死亡リスクが50~65%も高くなる。脳卒中、心筋梗塞、認知症のリスクもアップするというから、甘く見てはいけない。

 高齢者の栄養について研究している東北女子大の加藤秀夫教授(時間栄養学)は言う。

「アルブミンやヘモグロビンは、いずれもタンパク質の一種です。タンパク質は、血液や筋肉など、体のいろいろな組織をつくる材料になり、不足すると、脳出血、肺炎、骨折など、さまざまな病気を引き起こします。とりわけアルブミンが減ってしまうと、体にとっては緊急事態です。水分を血管に取り込む力が弱くなるので、むくんだり、お腹に水がたまりやすくなります。アルブミンはホルモンを体中に運んだり、筋肉のエネルギー源である脂肪酸を運搬する役割もあるので、体を元気にする力が弱まってしまいます」

 年をとって、さっぱりしたものしか受け付けない。だからといって肉や卵を避け、魚や野菜をちょっとしか食べないような食生活を続けていると、命を縮めることになりかねないのだ。

「肉や卵に多いといわれるコレステロールも、人間にとって重要な栄養素です。神経細胞やホルモンなどの原料になる物質で、少なすぎると免疫力が低下し、さまざまな疾患リスクを上昇させます。多すぎるのはよくありませんが、少なすぎると死亡率が上昇するという調査もあります」(加藤氏)

■量が少ない人は1日4食

 量を食べられないからといって、1日1食しか取らないのもよくない。

「年をとっても、しっかり1日3食は食べることが大切です。高齢者の場合、胃腸の働きが弱っているケースも多いので、一度に多くの食事ができない人もいます。そういう人は1回の食事量を減らし、1日4食取るようにしてください」(加藤氏)

 高齢になると、ペプシンやトリプシンといったタンパク質を消化する酵素が減っていく。一度に大量のタンパク質を摂取しても吸収しづらくなるから、毎日小まめに摂取するのが理想的なのだ。 ゴハンやパンの主食を避け、おかずだけしか食べない人も要注意。

 タンパク質をつくる必須アミノ酸の配合バランスを点数化した〈アミノ酸スコア〉という指数がある。米や小麦はアミノ酸スコアが低い食品だが、肉や魚といったおかずと一緒に摂取すると、お互いの足りない部分を補い、アミノ酸=タンパク質の質を高めることができるという。

 年をとってからは食事量を減らし、一汁一菜の粗食にするのが長生きの秘訣だと思われているが、大きな間違い。さっぱりした和食だけでなく、洋食も中華もどんどん食べたほうがいい。

関連記事