50歳以上メタボが危険 目の脳卒中「網膜中心静脈閉塞症」

「視力が急落した」「視野の一部が欠けた」「物が歪んで見える」。あなたが50歳以上のメタボで糖尿病、高血圧、緑内障などの持病があれば、それは「網膜中心静脈閉塞症」かもしれない。放っておけば失明につながる恐ろしい目の病気だが、いまは視力を回復させる注射薬がある。

 専業主婦の田中香子さん(仮名、63歳)が庭の花に水やりをしていたところ、急に右目が見えなくなった。テラスの四角のタイルが歪み、物が真っ黒に見えたという。
 大学病院へ駆け込んだところ、診断は「網膜中心静脈閉塞症」(CRVO)だった。東京医科大学八王子医療センター眼科の志村雅彦教授が言う。

「目の脳卒中というべき病気です。眼球を覆う網膜に酸素や栄養を供給した血液は、網膜静脈を通って網膜中心静脈に集められ、眼球の外に流れていきます。ところが、動脈硬化などで突如、網膜中心静脈が詰まることがあります。すると、網膜内の血管が膨張し、蛇行して血管が破れ網膜全体が出血。その中心である黄斑部に浮腫が起きた結果、視力が急落したり、物が欠けたり歪んで見えたりするのです」

 この病気が厄介なのは、症状が目の片側に出るため、自覚しづらいことだ。
「普段は両目で物を見ているので、重症化するまで病気に気づかない人は多い。出血は時間とともに引きますが、血流が戻らず血管が消失することも。そうなると、酸素・栄養不足により網膜の細胞の一部が壊死し、失明につながります」(志村教授)

 すぐに失明しなくても時間が経てばそのリスクは高まる。詰まって血流が悪化した血管に代わり、もろくて出血しやすい新生血管ができるからだ。

「新生血管は眼球の4分の3を形成するゼリー状の硝子体から伸びていきます。出血するとその硝子体は濁り、物が見えなくなる。あるいは新生血管が房水と呼ばれる目の中の水の出口を塞(ふさ)ぎ、失明リスクの高い新生血管緑内障を発症する可能性があります」(志村教授)

 この病気の検査は一般的な「視力検査」や「眼底検査」のほか、蛍光色の入った造影剤を腕の静脈から注射して、眼底カメラで眼底の血管の状態を観察する「蛍光眼底造影」などを行う。

「しかし、最も威力を発揮するのは網膜を断面的に観察する、光干渉断層計(OCT)検査です。網膜のもっとも敏感な部分である黄斑部にむくみ(浮腫)が起きているか、ひと目でわかるからです」(都内の眼科専門医)

 高価な検査機器だが最近は街中の眼科クリニックでも増えている。気になる人はどこでOCT検査ができるか調べておいたほうがいいだろう。

■0.1から2日後に1.0に戻った例も

 かつては有効な治療法がなかったが、いまは眼内注射がある。
「網膜にレーザー光線を照射して虚血部位の網膜を凝固する治療法が一般的でしたが、期待通りの成果が得られたわけではありません。しかし、眼内注射による治療の効果は顕著で、中心静脈閉塞症により0.1まで低下した視力が、翌々日には1.0まで回復した例もあります」(志村教授)

 新しい治療法は、静脈が詰まると目の中のVEGF(血管内皮増殖因子)の濃度が上昇、それが網膜の浮腫や血管新生に関与していることに注目。注射薬により、VEGFを本来の受容体に結合させないことで、浮腫や血管新生をストップさせる。

 現在、複数の注射薬が医療機関で使われているが、アフリベルセプト(一般名、商品名はアイリーア)は他の注射薬に比べ、より多くの種類のVEGFをブロックすると期待されている。

「ただし、発症後3カ月を超えると、注射をしても思うような効果があがらないとの研究報告もあります。目に異変があれば、すぐに検査して治療することです」(志村教授)

 ちなみに、冒頭の主婦・田中さんは眼内注射のおかげで、0.3まで落ちた視力が1.0まで回復したという。

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