患者800万人 カラオケ歌えないのはドライマウスのせい?

 患者数800万人といわれているのがドライマウスだ。文字通り「口の中が乾く」ことをいう。生活の質が下がるばかりか、さまざまな病気の引き金になる。高齢者においては、死因第3位の肺炎のリスクを高めることにもなるのだ。

 ところが、ドライマウスを自覚していない人も少なくない。年間5000人の新規患者が来院する鶴見大学歯学部付属病院・斎藤一郎教授に聞いた。
「口臭がひどい」「口の中がネバネバする」「滑舌が悪い」「ろれつが回らずカラオケが歌えない」「お茶や水がないと食事ができない」「クラッカーやせんべい、ビスケット、ラスクといった乾燥した食品をのみ込めない」――。

 もし、どれかひとつでも該当するようなら、ドライマウスが疑われる。
「唾液には抗菌物質としての働きと、潤滑油としての働きがあります。この唾液の分泌が不足するため、雑菌の繁殖を招き、口臭の原因にもなったり、舌の動きが悪くなったり、食物を唾液で絡めてのみ込めなくなったりするのです」

■歯周病や虫歯の原因

 それだけではない。歯周病や虫歯を起こしやすく、治りにくい。口腔内で増えた雑菌が全身に及び、免疫力が低下して感染症にかかりやすくなる。
「歯や入れ歯が口の中の粘膜と接触しやすくなるので、傷ができやすい。ドライマウスの患者さんには<口の中が痛い>と訴える方も少なくありませんし、アルコール成分を含んだ口腔洗浄液は、口腔内の傷にしみて痛くて使えません。傷ができやすいということは、それが白板症という口腔がんの前がん状態<がんになる可能性がある状態>になることもあります」

 ドライマウスは、シェーグレン症候群によるものと、そうでないものとに大きく分けられる。シェーグレン症候群は自己免疫疾患で膠原病の一種。唾液腺や涙腺が慢性炎症を起こして唾液や涙が出にくくなる難病だ。

「シェーグレン症候群の場合は、ほかにドライアイ、息切れ、発熱、関節痛、肌荒れ、疲労感、記憶力低下、めまい、集中力低下などの症状も見られます。ドライマウスのうち約1割はシェーグレン症候群によるもので、これに対しては唾液分泌促進薬を用いて治療を行います」

■薬剤の副作用

 残り9割のドライマウスは、原因が多岐にわたっている。心因性、筋力低下、口呼吸などで、これらが複雑に絡み合っている。

「ストレスを強く感じるとどんな人でも唾液の分泌が悪くなります。心因性のドライマウスは、その傾向が強い。また、加齢とともに筋力が落ち、寝ている時などに舌が喉の奥に落ち込みやすくなります。すると、口がぽっかり開いて、口腔内が乾きやすくなります。口を普段からポカンと開けるクセがある口呼吸の人も、やはり口の中が乾きやすくなります」

 就寝中に無呼吸の状態を繰り返す睡眠時無呼吸症候群の人も、口を開けて寝ているので、ドライマウスになりやすい。

 さらに深刻なのは、薬剤の副作用によるもの。
「口が乾く副作用がある薬は多い。これらを長期にわたって服用していると、唾液を分泌する機能が低下して、慢性的なドライマウスになりやすいのです。すると、薬をやめてもすぐにドライマウスが改善されない。また、ドライマウスの患者さんには、病院で抗うつ薬や抗不安薬を処方され、それらの副作用で一層ドライマウスが悪化している人もいます」

 シェーグレン症候群ではないドライマウスには、唾液分泌促進薬は保険適用にならない。原因を特定するのも困難だ。

「患者さんによって治療は異なりますが、基本的には、口呼吸や薬剤など取り除ける原因がある場合はそれを改善してもらい、定期的に舌を動かすなど、日常的に唾液を分泌しやすくする行動を取り入れてもらいます」

 何年もドライマウスに悩んできた人ほど、改善まで時間がかかる。気になる人は、ドライマウスの治療を行っている歯科へ!

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