注目の人 直撃インタビュー

夏井睦氏が語る「炭水化物が人類を滅ぼす」の根拠

本人も痩せて持病も克服/(C)日刊ゲンダイ
本人も痩せて持病も克服/(C)日刊ゲンダイ
穀物はあらゆる現代病のもとになる

 世の中、健康本があふれているが、衝撃的だったのが「炭水化物が人類を滅ぼす」(光文社新書)だ。20万部を超えるベストセラーになっただけでなく、「TVタックル」で取り上げられるなど、大きな話題となった。本当に炭水化物は人類を滅ぼすのか。話題の著者の夏井睦氏(練馬光が丘病院 傷の治療センター長)にとことん聞いた。

――なぜ炭水化物がいけないのですか。

 炭水化物は食品の中で最も血糖を上げます。その血糖は高い方が危険です。血液に入ると体は、インスリンを出して中性脂肪に変えて肝臓や皮下脂肪にためます。これが脂肪肝であり肥満です。血糖を下げる手段は炭水化物の制限しかないのです。炭水化物を摂取しなければ、余計な脂肪は付かないということです。

――でも、人類は穀物で飢えを満たしてきたわけですよね。先生はそれが間違いだったと?

 そうです。確かに穀物は1万年前の人類の飢えを満たしてきたし、豊作を願う人々にとっては神のような存在でした。しかし、同時に人間を不健康にしてきたのも穀物なのです。現代社会の代表的な疾患、糖尿病、睡眠障害や抑うつ、アルツハイマー、歯周病、アトピー性皮膚炎などの原因は穀物なんです。

――ずっと、米で育ってきたのに?

 日本人は大昔から米を食べているように思うけど、違いますよ。米を3食取るようになったのは1960年代以降です。昔の人は野草や野菜を中心に食べてきた。穀物がないと生きていけないというのは幻想です。たばこや酒のような「嗜好(しこう)品」のひとつでしかないと思います。

――なぜ、そんなに穀物が悪いのですか?

 血糖を上げる食物は糖質だけです。そして血糖を下げるホルモンはインスリン一つしかありません。インスリン分泌に異常が起きたら糖尿病まっしぐらです。糖質制限をすれば血糖は上がりませんから、糖尿病にならないのです。

■一日に必要な糖分は大きめの角砂糖1個

――糖分がそれほど体に良くないのですか?

 前提として、体重60キロの男性の全血液約4リットルに、ブドウ糖は4グラム含まれています。分かりやすくいうと角砂糖が1個3グラム、つまり全身に必要なブドウ糖は大きめの角砂糖1個ということになります。ところが、パン1枚で角砂糖8個分、ご飯1杯で14個分もの糖分があるのです。明らかに取りすぎです。

――でも、糖分は人間の体に必要なんですよね?

 糖分を必要とするのは脳です。血液1リットルあたり1グラムは維持し続けなければならない。でも、肝臓でアミノ酸から必要量のブドウ糖は作られるため、炭水化物によって摂取する必要はないのです。

――タンパク質を取っていれば、十分ということですか?つまり、肉や魚を食べたほうがいいと?

 血糖値を上げるのは炭水化物だけです。余計に取れば、脂肪肝や皮下脂肪にしかならない。一方、バター、チーズ、肉類などの脂肪に含まれる脂肪酸は、ホルモンや細胞膜の形成などに使われる。タンパク質は筋肉や組織の材料です。だから、タンパク質と脂質は外部から取り込むしかありません。

――先生自身が試され、痩せただけでなく、持病も治ったと聞きました。

 50歳前後から高血圧の患者でしたが、糖質制限開始から5カ月目に何となく血圧を測ると正常値になっていました。降圧剤も飲んでないし、運動もしていません。同時に中性脂肪、悪玉コレステロールの値も正常になっています。成人の病気は肥満が原因であることが多いため、炭水化物を制限すれば、ほとんどの病気を予防できるのです。近年は糖質と認知症の関係も指摘されています。

著書は20万部突破/(C)日刊ゲンダイ
著書は20万部突破/(C)日刊ゲンダイ
カロリーという概念を間違えている

――炭水化物をやめて、お腹がすきませんかね。簡単にできるものなのですか。

 先ほど説明したように、もともと炭水化物は体になくても大丈夫なのです。つまり、体がパンやご飯、お菓子を求めるのは単なる中毒症状・禁断症状なんですよ。血糖が下がるとイライラ感が生じ、これを解消するには血糖を上げるしかありません。しかし、血糖は摂取後2時間で下がります。この現象を空腹と勘違いして食べてしまうのです。

 血糖を上げられる食物は炭水化物くらいですから、チキンやステーキをたくさん食べてもイライラは解消しない。で、また、炭水化物を食べてしまう。でも、最初から炭水化物を食べなければ血糖の上下がないので、空腹感やイライラ、疲れも感じません。私は最近、朝晩2食しか食べていません。おかずは一般的な成人男性の一回の摂取量で、ご飯を抜いただけです。糖質制限を一度経験すれば、炭水化物を食べた後、体が重く感じ、眠くなるし、二日酔いと同じような症状になりますよ。

――そもそも、先生はカロリーの概念そのものに疑問を呈していますね。

 人間は何のために食べるか。3つの目的のためです。体の維持、体温の維持、そして活動のエネルギーです。人間の体には60兆個の細胞がありますが、1日1兆個の細胞が壊されては新たにつくられます。だからその分だけタンパク質と脂質が必要です。カロリーの概念を「暖房のための燃料」とイメージするとしたら、食物のタンパク質や脂質は体をつくる材料として、かなりの部分が消費される「建材」です。食べたものの多くは「建材」として使われている。動物は「建材」として食物を食べ、その一部を「燃料」として燃やしていますが、「食物=カロリー数」という考え方は「食べたものは燃料になる」というもので、「建材としての食物」を考慮していません。こうしたカロリーの概念は間違いです。

■マヨネーズも焼き肉も気にせず食べていい

――成人男子が一日に必要なのは何カロリーで、オーバーしたら運動せよ、というのも違うわけですか。

 運動で痩せようと思ったら大変です。ある人の研究では、40代には週5回のハーフマラソンをしないと体形は維持できないそうです。60代になれば週2回のフルマラソンが必要とか。運動で痩せるというのは幻想に過ぎません。

――それじゃあ、やってみようかなあ。

 サラリーマンは夜始めるのが一番楽ですよ。夕食を鍋にして締めの雑炊、うどんをやめてみる。お酒は日本酒、ビール以外なら焼酎やウイスキーは飲んでもいい。しかも二日酔いになりません。私自身この2年、二日酔いとは無縁です。食事も居酒屋メニューなら、何が入っているかすぐわかるから実践しやすい。後は、糖質の多い根菜類や果物、お菓子、ジュースを控えれば、マヨネーズも脂身も焼き肉も気にせず食べてください。タンパク質と脂肪は十分取ることがコツです。

(聞き手=本紙・小野真依子)

▽なつい・まこと 1957年、秋田県生まれ。東北大医学部卒業。練馬光が丘病院「傷の治療センター」長。湿潤療法の創始者。栄養素としての糖質の性質やカロリー概念など独自の考察や研究を行っている。著書「炭水化物が人類を滅ぼす」が20万部突破で話題に。

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