500万人が悩む「便失禁」 保険で症状を改善できる

「切迫性」「漏出性」がある/(C)日刊ゲンダイ
「切迫性」「漏出性」がある/(C)日刊ゲンダイ

「トイレに間に合わず“大”を漏らしてしまった」「気が付いたら、パンツに茶色いシミがついていた」――。
 便を漏らしてしまう「便失禁」に悩む人は全国に500万人いるという。

 便失禁は、通常の排便とは別に、便をしばしば漏らしてしまうこと。2つのタイプがある。便意は感じるが、排便を我慢できずにトイレにたどり着く前に便を漏らしてしまう切迫性便失禁と、知らないうちに漏れている漏出性便失禁だ(以下、切迫性と漏出性)。

「切迫性は比較的若い人に多く、漏出性は高齢者に多い。切迫性と漏出性のどちらもある人もいます」と言うのは、東京山手メディカルセンター(旧・社会保険中央総合病院)大腸肛門病センターの山名哲郎部長だ。

 肛門を締める肛門括約筋には、意識的に締める外肛門括約筋と、無意識に締める内肛門括約筋がある。切迫性は「外」が、漏出性は「内」が、うまく働かない。

 原因はまず、肛門括約筋の外傷。自然分娩による会陰裂傷、複雑痔ろうや直腸がんの手術などが関係している。次に、神経系の異常。これに関係しているのは、脊髄損傷などの脊髄の障害や、認知症など脳の障害。

「しかし、実際に多いのは、これらの異常がない健康な人の便失禁。高齢者はその傾向が強い。加齢による肛門括約筋の衰え、肛門の感覚や直腸の便意の感覚の低下などが考えられます」

 切迫性、漏出性どちらにも共通した治療法は、「便を整える」こと。

「夜は水分や酒を控える、食物繊維の摂取を心掛ける、適度な運動をする、便意を感じたらすぐにトイレに行くなど、排便に関する生活習慣を見直してもらいます」

 尿道、肛門、膣を締めたり緩めたりする骨盤底筋体操も行うが、一般的には、これだけでよくなる患者は少ない。そこで、下痢止め効果のあるロペラミドと、便の硬さを調整するポリカルボフィルカルシウムの2種類の薬を用いた治療が行われる。

「さらに、切迫性便失禁は、筋電図のセンサーをおしりに刺し、モニターを見ながら骨盤底筋を鍛える『バイオフィードバック療法』を行います」

■欧米では20年前から行われている。「仙骨神経刺激療法」

 これらによって便失禁が改善するのは、6~7割。治療成績を上げるため、これまで欧米を中心に、足の筋肉を肛門に巻きつけて電気で刺激する治療法や、人工的な肛門括約筋を用いた治療法など、さまざまな試みが行われた。しかし、どれも有効性にバラつきがあり合併症もあるなどの理由で、日本で行われることはなかった。

 ところが今年4月、新たな治療法が保険適用になった。「仙骨神経刺激療法」だ。排便に関する神経に持続的に電気刺激を与え、便失禁の症状を改善する。欧米では20年ほど前から行われてきた。

「体外からの電気刺激を一定期間行って、十分な治療効果が見られたら、心臓ペースメーカーのような装置をおしりに埋め込み、治療を継続します。便失禁の症状が完全になくなる治療ではありませんが、日本で行われた臨床試験で、仙骨神経刺激療法開始後、6カ月で、1週間の便失禁の回数が半分以下に減少した患者さんが約8割いました」

 山名部長は「仙骨神経刺激療法は画期的な治療法ですが、そこまでやらなくても、専門医の治療を受けて便失禁が改善される方はかなりいます。何年、何十年とひとりで悩んでいる人もいます。とにかく、病院を受診してほしい」と言う。

 茶色いシミに怯えずに済む日がやってくる。

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