認知症の母を記録し映画に 女性監督が提示する介護の選択肢

関口監督(右)とお母さん
関口監督(右)とお母さん(C)NY GALS FILMS

 兵庫県西宮市で3月7日、「かいご学会」が開かれた。登壇者のひとり、映画監督の関口祐加さんの話は、介護に不安を抱いている人に、“別の見方”を提示するものだった。

 関口監督は認知症の母親の在宅介護のために、29年間住んだオーストラリアから2010年に帰国した。

「認知症を疑って最初に連れて行った町医者が母に、『100-3は?』と聞いたんです。認知症を診るテストのひとつなんですが、その瞬間、プライドの高い母がムッとした。それ以来1年間、医師を拒否。昼間は寝るばかりの引きこもりになり、風呂にも入らなくなりました」

 医師は「閉じこもりはよくない」「外を歩かせなければいけない」と一方的に言う。しかし、母は嫌がる。そこで思ったのは、「WHYの法則」が必要なのではないか、ということだった。

「なぜ母は引きこもりを選択したのか。理由を考えた時に答えをくれたのは、順天堂大医学部の新井平伊教授でした。『認知症は、実は初期がつらい。まだらボケは、自分に何が起こっているかが分かる。できていたことができなくなった自分が苦しくて、閉じこもっているのでしょう』と」

「WHY」を頭に置けば理由が分かるし、それに応じた対策を講じられる。

「母の家系にはボケが多い。母本人も、ボケた母親が自分を忘れたことがトラウマになっている。だから、母が私や孫に『どなたさん?』と聞いたら、私は『隣の家のおばさんで~す』、孫は『レディー・ガガで~す』と答える。そして、『おばあちゃん、どなたさん? レディー・ババで~す』と返してワハハハと笑う。本人が落ち込んでいる時に、周囲がどう対応するかが非常に大事なんです」

■母は認知症の力を借りて解放されている

 関口監督は、「上から目線の医師ばかり」としばしば痛感するという。

「知り合った高名な医師が、学会のついでに家まで来て母を診てくれることになった。でも、医師の都合で訪問時間を決めたので、朝イチだったんです。その時間は母は機嫌が悪く、ケンもホロロで追い出してしまった。後で『トラウマになった』と先生に言われたんですが、限られたチャンスでベストのことをするにはどうすべきかと、考えない結果では? 医師はなかなか我々目線になれない」

 人間には、建前と本音がある。認知症の人も、医師の前では元気な様子をアピールするのに、家では暴れることもある。

「本音を見破る力量のある医師が必要で、そのためには、知見を共有しなくてはダメ。患者の家族側が医師を教育するつもりにならないと。医療中心のプログラムに合わせてやろうとすると、何も変わらない。私はだから、積極的に医師と意見交換します」

 関口監督の母親は、2年半後、認知症の進行とともに、引きこもりから抜け出した。冗談を口にするようになり、外出もする。風呂にも入り、“イケメン介護士”とのやりとりを楽しむことも。

「幸せ?」と聞く関口監督に、「幸せだよ~。嫌なこと、ぜーんぶ忘れるもん」と笑う。

「私は、まじめだった母が、認知症の力を借りて解放されていると感じている。モノの見方によって、対象は同じでも見え方が全く違う。つらい介護をしている人は、つらい介護を選択しているのではないかと、常々思うんです」

 関口監督は、母親の日々の様子をドキュメンタリー映画「毎日がアルツハイマー1・2」で紹介しており、現在FINALを撮影中だ。

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