脊柱管狭窄症は「どのくらい歩きたいか」で治療法が変わる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 50歳以上に増える脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭くなり、馬尾神経や神経根が圧迫されて腰痛や足のしびれなどさまざまな症状が出てくる病気だ。加齢が主な要因なので、長生きするということは、この病気とうまく付き合っていくということでもある。ところが、それができていない人が圧倒的に多いという。横浜市立みなと赤十字病院整形外科・小森博達部長(副院長)に聞いた。

 脊柱管狭窄症はここ数年、新たな技法の手術が登場した。“新治療こそ良い治療”とばかりにすぐに飛びつこうとする人もいるが、その前にきちんと段階を踏まないと、後々、後悔する可能性がある。

「脊柱管狭窄症は、たとえばがんのように、〈このステージだとこの治療〉、という考え方ができません。絶対的な手術適応がないため、患者さんそれぞれの生活スタイルが治療を決める上で重要になります」

 脊柱管狭窄症は、MRIで脊柱管に狭窄が見られ、間欠性跛行という症状があれば診断される。間欠性跛行とは、「しばらく歩くと足の重さ、しびれ、痛みが出てきて歩けなくなる。休めばまた歩ける」という症状のこと。“しばらく歩くと”が、治療を決める上での重要ポイントだ。

 Aさんは調子がいい時は1時間ほど歩けるが、悪い時は15分ほどで足が痛くなり歩けなくなる。Bさんは、歩ける時間は最長で30分、最短で10分だ。

 AさんとBさんを単純に比較すると、歩ける時間が短いBさんの方が積極的な治療が必要に思える。しかし、脊柱管狭窄症ではそうとは限らない。

「Aさんは野鳥の写真撮影が趣味で、長時間歩くことが多く、15分ほどで歩けなくなることに不満を抱いている。一方、Bさんはほぼ車移動で、自分で歩く時間はごく短く、10分しか歩けなくても問題を感じていません。つまり、積極的な治療を必要としているのはAさんで、Bさんはそうでもないということになります」

「家から駅までの道のりが徒歩20分。足が痛くてその距離を歩けないので困っている」「旅行が好き。友達と長時間歩き回れるようになりたい」など、人それぞれ、生活スタイルや生き方によって、必要とする“歩ける時間”は違う。間欠性跛行で歩けなくなるまでの時間と、治療の効き目を対比させ、治療法を決める必要があるのだ。

■“歩ける時間”が得られないなら手術も

 ところで、脊柱管狭窄症は薬物治療がファーストチョイスになる。小森部長の経験では、6割が“歩ける時間”が延びるという。

「治りはしませんが、“15分歩ければいいけど、今は5分しか歩けない”という人が、薬で15分歩けるようになったら、生活上は問題がなくなります」

 まずはこの薬物治療で、必要な歩行距離を“獲得”できるかどうかを確かめる。薬は「末梢神経の血液循環をよくする」ものを使う。脊柱管狭窄症の治療で多く使われているのが「慢性の痛みやしびれを抑える」薬だが、まったくといっていいほど効かないことも多いという。

 薬を使って必要とされる“歩ける時間”を得られなければ、手術を考えることになる。

 最近、登場している新手術は、背中の筋肉を傷つけない技法を取り入れたもの。術後、腰痛が起こりにくくなるといわれている。

「ただ、“歩ける時間”についての治療成績は新旧どの治療もたいして差はありません。新しい手術は、古い方法と比較検討できるほど数がまだ行われていないので、今後はどうなるか分からないという点もあります」

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