当事者が語る 「レビー小体型認知症」を発症して分かったこと

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(写真はイメージ)/(C)日刊ゲンダイ

「認知症は、医療関係者にも深く誤解されています」と話すのは、「私の脳で起こったこと レビー小体型認知症からの復活」を出版した主婦の樋口直美さん(53)。41歳でうつ病と言われ、6年間続けた薬物治療では重い副作用に悩まされた。後に誤診と判明。2013年、認知症の一種「レビー小体型認知症」と診断された。樋口さんにインタビューした。

■「認知症は誤解されている」

 多くの医師は「認知症は脳細胞が死滅し、記憶力も知性も失っていく一方」と考えています。しかし、それは完全に違います。レビー小体型の場合は、重度に見えても理解力はあります。私はレビー小体型認知症と診断され、2年以上経ちますが、幻視、注意力低下、意識障害など自律神経障害以外の症状は、ほとんど改善しています。認知機能テストも満点に回復しています。

 今年1月、「レビーフォーラム2015」の講演用に使ったスライドは、自分一人で作りました。スライドシェアというウェブサイトで公開し、20万ビューを超えています。

 “認知症に見えない”とよく言われますが、担当医によると発症は11年ほど前。認知症は病名ではなく、「認知機能の低下で自立した生活が困難な状態」を指します。その意味では、私は認知症ではありません。糖尿病などと同じ慢性病や一種の障がいだと受け止めています。

 問題は、医師をはじめ、認知症が正しく理解されていないことなのです。最初に診断された時、“坂を転がり落ちるように記憶も知性も人格も命も失われていく病気だ。私にはもう未来はない”と絶望と恐怖を感じました。進行を遅らせるためにできることを医師に聞くと「ない」と言われ、命綱を断たれた思いでした。若年性で自殺を考える方は少なくありません。

 この病気にはさまざまな幻覚があり、私も虫や人の幻視を見て怯える毎日でした。本物と全く同じリアルさで、区別がつきません。そんな物が見える自分が恐ろしかった。でも、幻視は正常な思考力、精神状態の時に見えるのです。本物にしか見えない幻視に正常に反応すると妄想や錯乱と言われ、狂人扱いされます。それが患者を苦しめ、ストレスで症状を悪化させます。

■「右肩下がりに悪化するのは間違い」

 認知症は右肩下がりに悪化する一方と医師は言いますが、違います。慎重で適切な治療が大前提ですが、不安などのストレスで悪化し、人と楽しく笑い合うことが一番症状を改善することを実感しています。運動など血流を良くするさまざまなことも効果があります。

 レビー小体型は薬に弱い体質になる特徴があり、処方薬や、風邪薬、胃薬などの市販薬でも、もうろうとすることがよくあります。薬で症状を抑えようとして副作用で悪化し、そのことに気づかず、「認知症が悪化した」と説明する医師も少なくありません。

 病気で低下する機能も、脳の無数の機能の中のごく一部です。私は単純な計算ができなくなった時でも思考力は衰えませんでした。若年性アルツハイマー病の方々も記憶力は落ちても思考力は落ちていません。病気によって症状は全く違います。認知症を病名のように使い、病気の種類も進行の度合いも無視して十把一からげに語られることが、診断された私たちを絶望させ、悪化させているのです。

 誰もが正しく病気を理解し、誰にでも話すことができ、それを自然に受け入れられる社会なら、この病気になっても穏やかに幸せに暮らし続けられます。私は、認知症をめぐる今の問題の多くは、病気そのものが原因ではなく、人災のように感じています。

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