神奈川県立がんセンターの重粒子線治療施設「iROCK」が今年12月のオープンを待たずして崖っぷちに立たされている。
今夏、日本放射線腫瘍学会が厚労省に求められていた、「粒子線治療が既存がん治療法に比べて優位とするデータ」について、「一部がんについてのデータは集められなかった」と報告したからだ。
「現在、重粒子線治療は特例で混合診療が認められる先進医療Aの扱いを受けています。ところが、今回の学会報告により“重粒子線が行うがん治療の一部が先進医療から外される”との見方が広がっているのです。とくに“一部がん”に前立腺がんが含まれているため、“重粒子線治療施設の運営が成り立たなくなる”と噂されています」(神奈川県の医療関係者)
実際、日本初の重粒子線治療施設である、放射線医学総合研究所(千葉県、通称・放医研)の前立腺がんの登録患者数は24.9%とダントツに多い。他の重粒子線治療施設も同様で、前立腺がんの患者が、重粒子線治療を支えていると言っても過言ではない。神奈川県議会の関係者が言う。
「今開かれている県議会の代表質問でも、この話題が取り上げられました。確かに患者数の割合が多い前立腺がんが先進医療Aからはずれれば、施設運営に大きな混乱が生じかねないとの懸念があります」
このため、神奈川県知事が、重粒子線によるがん治療が引き続き先進医療Aにとどまるよう、8月28日に厚生労働大臣、9月7日に内閣官房長官へ要望を行うなどの努力が行われている。
「神奈川県全域は、安倍首相が鳴り物入りでスタートさせた、医療における国家戦略特区に指定されています。難治性のがんの創薬、神経症の診断薬の開発など日本の医療開発拠点なのです。iROCKはその中核的存在と言っても過言ではありません。それがつまずけば、医療特区構想全体にも大きな影響が出ることになりかねない。ぜひ、激変緩和措置を取ってもらいたいものです」(神奈川県政関係者)
しかし、治療法が先進医療に当てはまるかどうかは、あくまでも医学的見地から判断すべき。経済的な観点から判断するものでもあるまい。
iROCK側は当面、患者に対して「重粒子線は、(1)からだの深部にある“がん”を集中的にたたいて、その周辺の正常な細胞を傷つけにくく、副作用が少ない(2)X線などと比べ、がんを殺傷する能力が強いため、今までの放射線治療が効きにくかった肉腫など難治性のがんにも効く」ことなどを説明していくという。
前立腺がんでは、強度変調放射線治療(IMRT)で40回前後の照射が必要だが、重粒子線治療では12回で済む。Ⅰ期肺がんでは、定位放射線治療(SRT)は4~6回の照射が必要だが、重粒子線治療は1回の照射で終わる治療法があるなど、従来の放射線治療より短期間で治療を行えるメリットも強調するという。
従来通り、重粒子線のがん治療が先進医療Aにとどまるか、否か。ある意味、日本の医療の分岐点になりそうだ。
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