レジリエンス高め若々しく生きる

メトホルミンが細胞の寿命を延ばす

 アメリカ国立老化研究所は、権威ある一流科学誌「Cell」にアンチエイジング=レジリエンスを高めるために効果的な7つの方法を発表しています。前回のスペルミジンに引き続き、今回は「メトホルミン」を紹介しましょう。

 メトホルミンは、WHO(世界保健機関)が糖尿病治療の必須医薬品として選んだ4種類の薬のひとつで、日常の診療でも世界中で広く使われています。肝臓の糖を作る働きを抑えたり、筋肉での糖の利用を促すなどして血糖値を低下させます。

 近年、血糖を下げるだけでなく、老化を遅延させて寿命を延長する効果があることがわかってきました。メトホルミンを飲むとカロリー制限と同様の効果があり、動物実験ではインスリン感受性の増強やLDL(悪玉)コレステロールの減少が見られ、寿命も延びています。メトホルミンは、細胞を傷つけてしまう有害な活性酸素の量をわずかに上昇させるが、それがむしろ細胞を強くして、細胞の寿命を延長させるという報告もあります。

 さらに、メトホルミンにはがんを予防する効果があることも多くの研究で確認されています。糖尿病の人は、糖尿病でない人に比べてがんになる確率が高いのですが、メトホルミンを飲んでいる糖尿病患者は、がんになる人が少ないのです。すでに血糖降下薬を服用していて、がんを予防したいという患者さんは、医師に相談してメトホルミンを使ってみるのもいいでしょう。

 健康な人が飲んでも低血糖を起こさないので、抗加齢医学会の中にはメトホルミンを服用している医師もいます。ただ、メトホルミンは医師による処方箋が必要な医薬品で、胃の不調や下痢といった副作用があり、妊婦、子供、腎臓疾患を抱えている人などは使用できません。自己判断で服用するのはやめましょう。

 今後、メトホルミンの研究がさらに進めば、糖尿病薬としてだけではなく、アンチエイジングに効果的な薬として応用されるかもしれません。

江田証

江田証

1971年、栃木県生まれ。自治医科大学大学院医学研究科卒。日本消化器病学会奨励賞受賞。日本消化器内視鏡学会専門医。日本ヘリコバクター学会認定ピロリ菌感染認定医。ピロリ菌感染胃粘膜において、胃がん発生に重要な役割を果たしているCDX2遺伝子が発現していることを世界で初めて米国消化器病学会で発表した。著書多数。