どうなる! 日本の医療

迫る医療機器テロ ネットで乗っ取られ患者の命が危険にさらされる

(C)日刊ゲンダイ

「サイバー攻撃のターゲットは官公庁や銀行、企業など。自分には関係ないし、それで命を失うことなどありえない」――。そう考えている人は認識を改めた方がいい。

 何者かに医療機器が乗っ取られ、あなたが使っている酸素マスクの酸素の供給を止められたり、医療カルテが盗み出されたりする。そんな事態が近い将来、起こるかもしれないからだ。長浜バイオ大学の永田宏教授(医療情報・医療経済学)が言う。

「今はあらゆるモノがインターネットに接続され、モニタリングやコントロールされる時代です。CT(コンピューター断層撮影)やMRI(磁気共鳴画像)装置などの医療機器も例外ではなく、故障があれば遠隔操作で修繕することが当たり前になっています。それに付随した他の医療機器もネットコントロールされているのです。そのリスクはこれまで語られてきませんでしたが、あらゆるネットがハッキングの対象であることを考えれば、早急に対策を行うべきです」

 実際、アメリカでは患者のCT画像がハッキングで盗まれた事例が報告されている。沖縄で開かれた「日本医療情報学会」でもこの問題が取り上げられた。永田教授は今後の医療機器のセキュリティー危機の可能性をこう指摘する。

「例えば病院での患者のインスリン点滴量や抗がん剤量をコントロールする機器にハッカーが侵入、勝手に薬の量を変えることも可能です。そうなると人命にかかわる事態にもなりかねません」

 ITセキュリティー問題のひとつ目の危機が医療機器のハッキングなら、ふたつ目は患者の個人データが盗まれるリスクだ。現在、医療革新の起爆剤として患者たちの膨大なデータの塊(ビッグデータ)が注目されている。しかし、これが患者情報流出の温床になりかねないのだ。

「カルテは匿名化され二重、三重のセキュリティーがかかっているためダイレクトに盗むのは難しい。しかし病名や入院期間など、ある程度の情報があれば、ビッグデータ内から特定され、その人物のカルテが盗まれる可能性は否定できないのです」

 では、どうすればいいのか。永田教授によると、どんな優れたソフトが開発されても攻撃しようとする人から逃れることはできないという。できるのは、医療機器のハッカーへの脆弱性を事前に知ること。そのため、プログラマーたちが集まって技術を競う“ハッカソン”などを行って医療機器の弱点を調査し、補強に努めるだけだ。

「だが、セキュリティーを強くし過ぎると医療機器などIT機器の利便性が失われます。かといって弱すぎるとセキュリティーが破られる。大切なのはそのバランスです」

 幸いなことに日本では医療機器への本格的ハッキング攻撃は報告されていない。しかし、「悪意の攻撃」がこの先起こらないとの保証はどこにもない。声高に「テロとの戦い」を叫び、勇ましさを強調している安倍政権が、忍び寄る医療機器テロを認識しているのだろうか。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。