厚労省は今年10月、2014年度の国民医療費が初めて40兆円を突破したと発表して、医療費増大の危機感をあらわにした。そんなさなか、2年ごとの診療報酬改定時期が来年3月に迫り、日本医師会を中心とした「報酬アップ派」と健保組合を中心にした「アップ反対派」の攻防が激しくなっている。増大する日本の医療費は削減すべきなのか。外科医でNPO法人「医療制度研究会」副理事長の本田宏氏が言う。
「国は40兆円、40兆円、こりゃ大変と一部マスコミを利用し危機感をあおっています。その目的は18年度までの3年間で社会保障費の増加を1.5兆円程度に抑制したいからです。この数字は従来の医療費に高齢者の自然増分のみをプラスしただけ。つまり国は、財源不足を理由にマイナス改定する腹積もりなのです」
本当に、これは大いなるまやかしだ。本田医師が怒りを込めて説明する。
「国の医療費が40兆円超えと大騒ぎしていますが、対GDP割合に占める日本の総医療費は、OECD加盟国で平均並みなのです。しかも、ヨーロッパ諸国では国民の窓口負担額はほとんどゼロ。一方、日本は2割、3割負担です。それを考えれば国の医療費負担は少な過ぎます」
そもそも昨年、消費税を5%から8%に引き上げたのは何のためか。増税の3%分は社会保障費に回されるはずだったのに、医療費に回されたのは増税分の1、2割のみで、それ以外は別の予算に流用されている。
「安倍首相は外遊のたびに他国に気前よく数千億単位の開発援助資金をバラまいて、軍事費も過去最高に増大。一体その原資はどこから出ているのか」(本田医師)
こうした批判に対して診療報酬アップ反対派の「健康保険組合連合会」は11月20日の「中医協総会」で、「一般病院では公立病院を除くと50~299床規模で黒字を維持している」と指摘。診療報酬引き上げ派の「日本医師会」の、「国公立以外の民間病院は20~49床が赤字に転落し、50~99床も苦しくなっている」という反論に耳を貸さない。
「国民が無関心と沈黙を守っている間に、病院の経営状態は緊急事態に陥っています。関東圏のある地域中核病院では経営が赤字でニッチもサッチもいかず、ボーナスを下げざるを得なくなっている。これに医師や看護師が怒り、看護師が大量に集団離職する動きさえ見られます。診療報酬を引き上げなければ、多くの病院経営が行き詰まり閉鎖という恐ろしい事態が起こり始めようとしています」(本田医師)
首都圏の私立医科大学病院の中には、設備投資などで巨額な累積赤字を抱えているところもあるという。
いよいよ日本の医療崩壊が現実的になってきた。
どうなる! 日本の医療