どうなる! 日本の医療

「高度急性期病院」同士で熾烈な生存競争

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 これまで述べたように全国の多くの病院が赤字経営に陥り、消滅の危機にある。病院の経営側は病院の将来をどう見ているのか。徳島県を中心に26病院のほか、特養、老健施設などを経営する博愛記念病院(徳島市)理事長で日本慢性期医療協会の武久洋三会長に聞いた。

「厚労省は、団塊世代が後期高齢者となる2025年度に向けて新しい医療制度を推進しています。首都圏の大学病院に代表される高度急性期病院は、それに沿った病院を目指して多額の設備投資を行い、より多くの診療報酬を獲得しようとしています。しかし、これからは水ぶくれした高度急性期病院の内容が厳しくチェックされ、問題があれば『高度急性期病院』の看板を外される。今後、そのための熾烈な戦いが起きるのは間違いありません」

■看板を外されたら生き残れない

 例えば、都内の高度急性期病院の適正ベッド数は約1万5900床といわれるが、現在は約3万1000床もある。これからは規模の適正化に向け、厳しい機能評価がなされるのは必至だという。

「1万5900床というと、もの凄い数だと思われるかもしれませんが、仮に1000床の高度急性期病院が16病院あれば足りる計算です。つまりそれ以外の病院は高度急性期病院の看板を取り上げられる可能性があるのです。そうなれば患者も集まらず、経営的にも苦しくなります」



 では、高度急性期病院として生き残るためには何が基準になるのか?

「ひとつは手術件数です。高度急性期病院は年間7000件以上の手術件数が必要になるのではないか」

 これを実現するには手術を希望する患者をより多く集めるか、必要以上に手術を手掛けるしかない。ところが、いまの患者の病院選択基準は10年前とまるで違うため、目標の手術数をクリアするのは難しいという。

「かつては雑誌などや噂で『あそこにはいい医者がいる』といえば患者が集まった。しかし、いまはネットで病院の手術件数、救急患者数、5年生存率などを入手し、データのいい病院を選択する。数字を誇れない病院の経営は厳しくなります」

 その結果、年間5000件の手術件数があっても淘汰される病院が出る可能性があるという。

 そうならないために、多くの高度急性期病院では空きベッドを減らす目的で入院期間が90日を超える、“慢性期患者”を抱え込んでいるという。

「病院によっては2~3割近くの入院患者さんが、これにあたるといわれています。現在は7対1病院(入院患者7人に対して看護職員が1人勤務)の入院費が1日6万~8万円。慢性期の病床に移動すれば1日1万8000円程度ですから、急性期病院にとっては、患者さんに長く入院してもらった方が収入が多くなる仕組みです。しかし、今年の改定でここに大ナタがふるわれ、急性期での入院が長くなると1日の診療費をどんどん下げると厚労省が宣言しています。急性期病院は患者さんをどんどん退院させて、どんどん入院してもらわないと経営できなくなる。厚労省は非効率的な急性期医療を適正化しようとしているのです」

 あなたの自宅近くの病院が突然なくなる。そんな事態がここ数年以内に訪れるかもしれない。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。