どうなる! 日本の医療

都心では安く歯を治せなくなる

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 日本の歯科医師は過剰と言われて久しい。実際、人口10万人当たりの歯科医師数は81.0人で、OECD諸国の平均63.6人に比べるとはるかに多い。しかし、この数値に疑問を投げかけるのは「すなまち北歯科クリニック」(東京・江東区)の橋村威慶院長だ。

「国はこの数字を使って『歯科医師数が多すぎるから患者さんは困っていない』と主張していますが、果たしてそうでしょうか? 大事なのは歯科医師がどこに偏在しているかで、一部の患者さんは歯科医療から遠ざかっていると思います」

 例えば歯科医師は大学病院に大勢いるが、通常の患者が歯の治療や歯石除去のために、わざわざ大学病院に通うことはない。通うとしたら、口腔がんや難しい親知らずの抜歯などだが、その数は患者全体の1割未満。一般の患者が必要としているのは、地域市区町村の歯科医師だ。

「その地域の歯科医師の数を調べてみると、驚くべき実態が浮かびあがります。首都圏でも大きな街といえる埼玉県川口市の人口10万人当たりの歯科医師数は61.5人、神奈川県相模原市中央区は53.7人です。これはOECD諸国の平均より低い。同じように人口は多いが歯科医師数が少ない地区は首都圏を含む関東地方だけで25地区に上ります」

 橋村院長は、このままでは20年後に極端な歯科医師不足となり、都会では簡単な歯科治療すら受けられなくなると警告する。その最大の理由は、国がいまだに「10万人当たりの歯科医師数を50人とする」との歯科医師抑制策を改めないからだという。

 むろん、歯科医師の偏在は歯科医師側にも問題がある。たとえば、多くの歯科医師が歯科大のある地域やその周辺での開業や就業にこだわる傾向にあるが、歯科大に難病例の患者を送りやすく、また患者も多いと勘違いしているからだ。

 実際、関東地区で一番歯科医師が多いのは歯科大がある東京・千代田区。人口10万人当たりの歯科医師数は3087.6人。それに次ぐのはやはり歯科大がある東京・文京区の523.6人だ。

 当然、これらの地域では歯科医院間の過当競争も起きていて、患者獲得のためにベビーシッターを雇ったり、リフレクソロジー(足裏マッサージ)を施したりと、医療とは別次元の過剰サービスもエスカレート。他の歯科医院との差別化を図るため、高額な材料費がかかる最先端の根管治療などをウリにする自由診療の歯科医院も増える傾向にある。

■地方は混雑に拍車

「今後は資金力のある歯科医院が生き延び、零細の歯科医院は淘汰されるでしょう。そうなると、都心の住民はお金がないと満足な歯科治療は受けられなくなる。一方、地方では収入を求めて歯科医師が都会に集まるぶん、歯科医師不足に拍車がかかることになるでしょう」(橋村院長)

 体の健康は口からという。その担い手である歯科医師の偏在により、日本人の健康は口から崩れ去るかもしれないのだ。

村吉健

村吉健

地方紙新聞社記者を経てフリーに転身。取材を通じて永田町・霞が関に厚い人脈を築く。当初は主に政治分野の取材が多かったが歴代厚労相取材などを経て、医療分野にも造詣を深める。医療では個々の病気治療法や病院取材も数多く執筆しているが、それ以上に今の現代日本の医療制度問題や医療システム内の問題点などにも鋭く切り込む。現在、夕刊紙、週刊誌、月刊誌などで活躍中。