“こぶとり爺さん”もガンだった? 「耳下腺腫瘍」に要注意

違和感に気づいたら早めに受診を
違和感に気づいたら早めに受診を(C)日刊ゲンダイ

 昔話「こぶとりじいさん」のこぶは、がんだった?? 「はねだ耳鼻咽喉科」の羽田達正院長に聞いた。

■発症原因は不明

「こぶとりじいさん」はご存じの通り、顔に大きなこぶのあるおじいさんが主人公で、鎌倉時代の説話物語集「宇治拾遺物語」にも同類の話が載っている。おじいさんのこぶと似たような様相を呈するのが、耳下腺腫瘍だ。

「耳下腺は、顎下腺、舌下腺とともに唾液腺のひとつで、唾液をつくりだし、分泌する器官。3つの唾液腺のうち最も大きいのが耳下腺で、唾液腺の腫瘍の7割を耳下腺腫瘍が占めます」

 耳下腺の場所は、左右の耳の前から下にかけてで、ちょうどおたふく風邪で腫れる辺りだ。

 腫瘍ができていても、痛み、違和感、食事ののみ込みにくさ、しゃべりにくさ、耳の聞こえの悪さなどの自覚症状はない。唾液に関連した器官だが、唾液の分泌が悪くなるわけでもない。

 自覚できるのは、指で触れるしこり程度。最初はほんの小さなものだが、時間をかけて徐々に大きくなる。

「耳下腺腫瘍で来院される患者さんには、『しこりが気になってかかりつけ医や皮膚科を受診したが、“脂肪の塊でしょう”と言われた。放置していたら大きくなった』と言う方が少なからずいます。脂肪の塊との違いに注意してほしい」

 耳下腺腫瘍は、脂肪の塊のように「触るとプニュプニュ柔らかい」という感触ではない。

 ただ、専門家でなければ区別が難しいかもしれないので、しこりがあれば「耳鼻科」あるいは「頭頚部外科」を受診し、検査を受けた方がいい。「皮膚科」は専門科ではない。

 特に、しこりが大きくなるようなら、病院での検査は必須だ。女性は化粧をするので顔を触る機会が多く、早い段階で気付きやすい。しかし、男性は本人が思っている以上に顔の変化に無頓着な傾向がある。気をつけたい。

■誰でも発症する可能性あり

 この耳下腺腫瘍は大半が命に影響がない良性腫瘍だ。しかし、良性腫瘍の可能性が高いという場合でも安心はできない。

「耳下腺腫瘍の悪性腫瘍(がん)は、組織型が多岐にわたり、悪性度が低いものもあります。この低悪性度の腫瘍は、良性腫瘍との鑑別が難しい」

 さらに、良性腫瘍にも「多形腺腫」や「ワルチン腫瘍」などの種類があり、最も数を占める多形腺腫は後にがん化することがある。どんな多形腺腫が、いつがん化するのか分かっていないというから、注意が必要だ。

 良性でも悪性でも、耳下腺腫瘍の治療は基本的に手術となる。前述のように「良性腫瘍と低悪性度の区別が難しい」「良性腫瘍の中にもがん化するものがある」といった理由に加え、消化器系のがんや呼吸器系のがんなどでは一般的に行われる生検が、耳下腺腫瘍では術前にできないため、手術が選択される。

「生検などによって、がんが散らばるリスクがあるのです。術前はMRIやCT、超音波で検査をしますが、病理検査をするのは手術で腫瘍を切除してからになります。手術をしてから、『やはり良性腫瘍だった』と分かるケースもあります」

 耳下腺腫瘍は、原因が明らかになっておらず、当然ながら、どういう人が発症しやすいかも分かっていない。

「患者さんは10代もいれば、40代以上の中高年もいます。幅広い年代にわたっています」

 決して数の多いがんではないが、「自分は大丈夫」とは言えないことは確かである。

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