人が持つ「がん免疫監視システム」を正常に戻すことで、がんを消滅させる薬――。2014年発売以来、世界中のがん研究者から熱視線が注がれているのが、皮膚がん(メラノーマ)治療と肺がんの非小細胞肺がんの抗がん剤「オプジーボ」(一般名ニボルマブ=小野薬品工業)だ。しかし、この抗がん剤、薬価でも日本の医療界に大きな波紋を投げかけている。
4月6日の日本医師会の定例会見で、中川俊男副会長はオプジーボの薬価を念頭にこんな発言をした。
「効能が追加されて市場が拡大すれば、(必要な)原価が下がったはず。薬価は2年ごとに改定されるが、すでに保険が使える医薬品でも新たな効能・効果が追加された際には、2年を待たずに薬価を下げるべきだ」
この背景には、「オプジーボ」の高すぎる薬価と、それを認める日本の薬価決定プロセスに問題ありとの意見が多いことがある。
「オプジーボ」の薬価は、100ミリグラム1瓶で72万9849円。この薬を非小細胞肺がんの患者に1年間投与すると、約3500万円かかるという。薬価決定に詳しい薬剤師が言う。
「新薬の価格のつけ方には、類似薬効比較方式と原価計算方式があります。オプジーボのように画期的新薬は後者で決めます。大まかに言うと、開発にかかった費用などを、売れる見込みの薬剤数で割り、そこに1瓶あたりの材料費を足すという方法です」
オプジーボの最初の認可は、患者数予測がピーク時でも患者500人ほどのメラノーマ(悪性黒色腫)だった。当然、1瓶あたりの値段は跳ね上がる。
「その後、この薬が非小細胞肺がんにも効果があると分かり、そちらも認定を受けたのです。患者数は約10万人で、うちオプジーボ投薬対象者の推計は5万人。このため製薬会社は“予想外の収入”を得たとみられますが、一度決まった薬価は変わっていません」(前出の薬剤師)
これに真っ青になったのが厚労省だ。国民医療費は今や40兆円で、そのうち薬代金は約10兆円。仮にオプジーボを非小細胞肺がんの患者約5万人に投薬すると、その薬代金は1兆7500億円となり、これまでの薬代の約2割を占めることになる。
「このままでは国民はさらに数千億円の薬代金の負担をのむか、他の病気の薬代を削るしかありません」(厚労省関係者)
むろん、現行制度でも当初の推計より売れすぎた場合には「市場拡大再算定制度」などの薬価を下げる仕組みはある。
「仮にそれが適用されても現行制度では価格の変更は2年に1度ですから、認可を受けてから2年間は今のままの価格が続くということです」(前出の医療関係者)
忘れてならないのは、これはオプジーボに限った問題ではないということだ。これまでも、新薬開発当初から適用拡大が予想されながら、患者数の少ない病気の治療薬として申請、その後、一気に市場拡大した薬はなかったのか?
製薬関係者からは、「後からのルール変更は自由競争の否定」「企業の新薬開発の意欲をそぐもの」との批判があるが、今後も画期的新薬は続々登場する。制度変更の遅れは許されない。
どうなる! 日本の医療