治療の第一人者が語る 「脱・薬物依存」最新プログラム

高知東生は2016年6月に逮捕された
高知東生は2016年6月に逮捕された(C)日刊ゲンダイ

 清原和博、ASKA、高知東生ら昨年は著名人による薬物事件の報道が相次いだ。しかし、それらが薬物依存撤廃につながるのかといえば……。

「薬物に手を出していない人にとって、一連の薬物事件の報道は抑止力になるかもしれない。しかし、薬物依存で苦しんでいる人には、かえってマイナスの影響があります」

 こう話すのは、薬物依存治療の第一人者、国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部の松本俊彦部長だ。

 患者の中には、治療で回復しつつあったにもかかわらず、テレビ画面に何度も映し出される注射針や白い粉末に、薬物への欲求が「再燃」した人もいるという。

 また、「薬物依存に陥る人に問題がある」といわんばかりの数々の発言が、誤った認識を世間に浸透させ、薬物依存患者の孤立化をより招いた可能性もある。

 薬物依存は、アルコール依存症などと同じ「依存症」という病だ。

「薬物の度重なる使用で脳が変性し、薬物への強い欲求をコントロールできなくなっている。意志の力でやめられる段階ではないのです」

 反省と回復は別問題だ。患者はすでに十分、反省している。深く反省して、人によっては「いっそ死にたい」とまで思いつめているのに、それでも薬物に手を出してしまう。

 日本では「薬物依存には刑罰を」との風潮が強い。逮捕されて刑務所に入所すれば、確かにクスリをやめられる。クスリを使える環境でなければ、薬物への欲求は湧いてこない。

 しかし、刑務所から出てクスリを使える環境になると、手を出してしまう。ある患者は「刑務所内では二度とやらないと誓っていたが、出たら人格が変わってしまったようにクスリを使いたくなった」と話したという。

「薬物と手を切るには、治療をおいてほかにありません。重要なのは、継続的な治療なのです」

■7~8回の大失敗は対回復へのアプローチ

 松本部長が2006年に開発したプログラムが「SMARPP(スマープ)」だ。週1回、精神科医などのスタッフと患者がグループになり、薬物への欲求をコントロールする方法を学ぶ。

 毎回尿検査をするが、薬物反応が出ても患者を責めない。警察には通報せず、自首も勧めない。参加を歓迎し、欠席者には「来てくださいね」とスタッフがメールを送る。これによって、初診から3カ月間の治療継続率は9割以上に伸びた。スマープ不参加群は6割以下なので、かなりの差だ。

「薬物依存の患者さんは、通報への恐怖などから誰にも相談できない。その孤立化が一層、薬物使用へ走らせる。スマープで安心して何でも話せる場を得て、薬物をやめるきっかけをつかんでもらうのが狙いです」

 スマープ終了後は、薬物依存から回復した当事者たちのリハビリ施設や自助グループで、クスリを使える環境でもクスリを使い続けない方法を学ぶ。

 さらに最近、松本部長は、刑が一部猶予されて早期に保護観察下での地域生活が始まったら、その時点から精神保健福祉センターに関わってもらい、必要に応じてスマープやリハビリ施設、自助グループにつなぐ試みに取り組んでいる。

 そうすれば、保護観察終了後でも、何か困ったことがあれば地域のさまざまな支援機関につながりやすい。薬物依存症の人で、最も薬物の再使用が多いのは「刑務所から出た直後」で、次に多いのは「保護観察終了後」だ。このような仕組みがあれば、それら再使用のリスクを下げられるのでは、と期待されている。

 薬物依存は、7~8回ほど大失敗(再使用で大きなトラブルを起こす)を繰り返し、回復に至る。大失敗は、回復へのアプローチなのだ。それすらも知られておらず、挫折とみなされてしまうのが現状だ。

■もしもの時は

 もし、家族が薬物依存に陥っていたら、まずは地域の精神保健福祉センターに相談が望ましい。どうすればうまく治療へつなげられるかの適切なアドバイスを無料で受けられる。

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