長らく長寿日本一だった沖縄県は、今や「短命県」ともいわれている。その食の実態を、沖縄で夫とともに「とくだ歯科クリニック」を開いている徳田寿枝副院長がリポートしてくれた。
かつては、長寿日本一として知られていた沖縄だが、2000年に男性が26位と急落。10年には女性が3位に落ち、男性も30位とさらに下がっている。しかも、65歳未満の死亡率が全国一となってしまった。その大きな要因が痩せられない食生活だ。
関東出身の徳田副院長は、16年前に夫の郷里である沖縄へ移住した。
「旅行でしか滞在していなかったので、漠然と沖縄の食事は『健康食』というイメージを持っていました。ところが住み始めてみて、また夫がメタボでその改善に努める過程で、沖縄の日常の食生活の実態が見えてきたのです」
スーパーの総菜コーナーには、さまざまなトッピングのピザがずらりと並ぶ。大きいのに399円と格安で、家族の夕飯にするのか、客が何枚も買っていく。中高生から大人まで人気の弁当は、たっぷりのご飯の上にコロッケ、ハンバーグ、空揚げなど、高カロリーのおかずがぎっしり。ご飯には、揚げ物の油が染み込んでいるほどだ。
「サービス精神が旺盛なのでしょう。ご飯の白いところが見えると、よくないと思っているようです」
■売れ筋メロンパンはご飯4杯分のカロリー
地元民で混み合う大衆食堂の多くは、大きなヤカンに入ったアイスティーが置かれていて飲み放題。これがとにかく甘い。加糖のアイスティーは加糖のココアとともに、沖縄県民に愛されている飲み物だという。
「1リットルの紙パック入りが100円以下と激安。だから1リットルを買い、ストローを挿して、ちびちび一日中飲むんです」
コーラは1缶40円以下。水より安いので、水を買うならコーラを選び、ケース買いする客も多い。菓子パンもやはり安く、税込みでも80円を切る。沖縄では「1リットルの甘いアイスティーを飲みながら菓子パンをかじる」地元民の姿がよく見られるという。
「沖縄のメロンパンは、中にチョコレートクリームやマーガリンが挟まれています。沖縄県民が本土に行った時によく言うのが『本土のメロンパンは中身が入ってなかった!』。売れ筋商品のメロンパンのカロリーを見ると882キロカロリーでした」
これは、ご飯普通盛り4杯弱に相当する。
■泡盛のコンデンスミルク割り
アイスクリームも一年中売れている。よりどり5個498円などの売り方で、売り場面積はべらぼうに広い。
「沖縄県民は、本土の薄味より全体的にこってりした味付けが好き。水より清涼飲料水が定番ですし、アメリカ製の濃い味の調味料や甘過ぎる菓子に慣れた年代では、コーヒーに練乳を入れる人もいる。泡盛のコンデンスミルク割りなんて飲み方もあります」
とくだ歯科クリニックには、さまざまな年代の患者が来院する。
高齢で健康な人に若いころの食生活を聞くと、主食は芋だったという。野菜は年中あるので日常的に食べ、肉は盆と正月、行事の時だけ。漁師町では市場に売って余った魚を時々食べる。昭和初期まではこれが日常だったそうだ。
ところが、本土に先駆けてアイスクリームの大型店や24時間営業のドライブインのハンバーガー店などがオープン。現在、ハンバーガー店は若者に限らず、たくさんの高齢者が利用している。
「沖縄県民の食文化はアメリカ化され、食生活の変化とともに味覚も変わり、こってりした味付けを好む。とても痩せられる食事ではありません」
結果、沖縄の久米島(那覇から一番近い離島)では、小学生の30%、中学生は52%が糖代謝異常を抱えている。那覇市の小学4年生は男女ともに肥満の割合が全国平均より高く(平成24年那覇市小児生活習慣病検診から)、受診児童の男児は、腹囲で56.9%、中性脂肪で25%、HbA1Cで46.6%が正常値を超えている。
「歯がボロボロの3歳児、清涼飲料水やプリンが食の中心で、白米さえ硬くて食べられない3歳児など、普通では考えられない子供たちもいるのです」
沖縄を見れば、食生活は健康と大きく関わっていることが分かる。