効果に疑問符 歯科医師はなぜ「歯磨き剤」を勧めないのか

大事なのは歯ブラシの使い方
大事なのは歯ブラシの使い方(C)日刊ゲンダイ

 歯磨きする際、当たり前のように使っている歯磨き剤。不思議なのは熱心に歯磨きの仕方や歯ブラシの選び方をアドバイスしても、歯磨き剤について話す歯科医師があまりいないこと。本当に必要なのか? 自由診療歯科医師で「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長に聞いた。

「歯磨きで一番大事なのは歯ブラシの使い方です。必ずしも歯磨き剤は必要ありません。人によってはデメリットの方が多いかもしれません。少なくとも私は使わないし、普通は歯科医も歯科衛生士も使いません」

 歯のトラブルの主な原因は食べかすなどが歯と歯の間などに残ってしまい、そこに細菌が付着して歯垢(プラーク)を形成するから。それを取り除くには歯ブラシによる機械的な動きをしっかり行うことが不可欠だが、歯磨き剤を使うと磨けてないのに磨けたつもりになり、結果的に虫歯や歯周病のリスクを高めることになるという。

 実際、歯磨き剤には磨き心地を良くするために発泡剤やミントなどの清涼剤が多く含まれおり、たっぷり使うと過剰に泡立って口の中が爽やかさを感じてしまう。

「なかにはミントなどの刺激が強すぎて長時間歯を磨けない人もいます。歯科医師が歯磨き剤を敬遠する理由のひとつに研磨剤があります。ホワイトニング専用、ヤニ取りなどとうたっている歯磨き剤には研磨剤が含まれています。最近、目立って増えているのが、歯ぎしりや食いしばりでくさび状に削れた歯の付け根を硬い毛の歯ブラシや電動歯ブラシで力任せに横磨きし、歯をダメにする患者さん。こんな人が研磨剤入りの歯磨き剤を使うと、磨き過ぎに拍車が掛かってしまいます」

 その原因は間違った歯磨きのイメージにあるという。一般の人は洗剤で皿洗いするように歯の表面の汚れを落とす、というイメージを描きがちだ。しかし、歯の表面に付着した細菌は歯ブラシでしっかり磨けば十分除去できる。わざわざ歯磨き剤を使う必要はない。

 口臭予防の効果も期待通りにはいかない。

「口臭の原因は、口、鼻、内臓由来の呼気に大別できます。このうち口が原因の口臭は、虫歯や歯周病、舌苔、唾液量減少によるドライマウスなどで起こります。歯磨き剤をつけても口臭自体が消えるわけではありません。歯磨きで口臭が消えたとしても一時的で、それは香水をかけているようなものなのです」

■かろうじて効果があるのは2つだけ?

 実は歯磨き剤には2種類ある。歯石の沈着や口臭などを防ぐための基本成分のみが入っている「化粧品」と、歯と歯ぐきの健康を保つための薬効成分が含まれている「医薬部外品」(薬用歯磨き剤)だ。

「薬用歯磨き剤には漢方や消炎剤、ビタミンやプラークを溶解する薬剤が入っているものがありますが、有効成分が吸収できるか疑問だったり、効果があってもその場限りとしか考えられないものがほとんどです。あえて効果を認めるとしたら、歯磨き剤は『フッ素入り』と『知覚過敏用』です」

 フッ素入りは子供や歯ぐきが下がって象牙質がむき出しになったところが虫歯になっている中高年には有効だという。プラークの中での細菌の活動を抑制し、歯の質を強化して、歯の再石灰化を促す働きがある。

「冷たい水などが歯にしみる知覚過敏用の歯磨き剤は、刺激が通る象牙質の細管の入り口をふさいで痛みを止める効果が得られます。ただし、いずれも根本治療にはなりません。あくまでも歯科医師に行く前の処置としては有効ということです」

 基本的に歯磨き剤は必要ない。ただし、コーヒー好きの人などは歯の表面に色素が付着する恐れもある。そんな人は普段の歯磨きは水だけで行い、1日1回程度、研磨剤を含んだ歯磨き剤で歯の表面をザッと横磨きするのがいいだろう。

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