低温で増殖する細菌も 食中毒を防ぐ正しい冷蔵庫の使い方

これからの季節は特に気をつけたい
これからの季節は特に気をつけたい(C)日刊ゲンダイ

 いよいよジメジメした梅雨の季節がやってくる。そこで気になるのが食中毒だ。中には「食べ物は冷蔵庫に入れているから大丈夫」と思う人もいるだろうが過信は禁物。冷蔵庫は使い方によっては食中毒リスクをアップさせることにもなりかねない。

 家庭で繁殖しやすい食中毒菌といえば、生肉やレバー、卵などに繁殖する「サルモネラ属菌」、牛肉などに繁殖する「腸管出血性大腸菌」、鶏肉に広がる「カンピロバクター」、魚介類やお寿司などに広がる「腸炎ビブリオ」などだ。

 細菌が繁殖するには「温度」「水分」「栄養」が必要だが、食品には水分と栄養が含まれている。そのため、カギを握るのが温度だ。県立広島大学名誉教授で、東北女子大学家政学部の加藤秀夫教授が言う。

「細菌の多くは10度以下で増殖スピードが遅くなり、冷凍庫の目安温度であるマイナス15度以下で停止します。しかし、それで細菌が死んだわけではありません。室温に戻すと爆発的に増殖して、食中毒を引き起こすものもある。冷蔵庫に入れたからといって安心してはいけません」

■1時間で危険域に達するケースも

 一般的に細菌は倍々に増えていく。2倍に増えるのに必要な時間を「世代時間」という。多くの食中毒菌の発症菌量はおおよそ10万個。早ければ数時間で危険域に達するものもある。自治体や食品会社などからさまざまな検査を請け負う「㈱静環検査センター」(静岡県藤枝市)で食品細菌検査を担当する大村正美参与が言う。

「例えば、腸炎ビブリオの世代時間はわずか10分です。お刺し身などに1000個程度付着していれば、1時間を過ぎた頃には食中毒の危険域に到達することになります。この菌は5~55度が増殖可能温度。4度以下に設定した冷蔵庫に保存していても、取り出したら、できるだけ早く食べる必要があります」

 増殖可能温度が同じサルモネラ菌や病原性大腸菌の世代時間は20分、黄色ブドウ球菌は30分。仮に1000個の細菌がついた食材を常温で放置すると、食中毒の危険域に達する時間は前者で約2時間、後者で約3時間だ。一方、カンピロバクター菌やO-157は100個で食中毒を発症させる可能性がある。

 細菌の中には、冷蔵庫内で増殖を続けるものもある。冷蔵庫の温度の目安となる4度以下でも増殖する低温細菌だ。

「日本での報告はありませんが、欧米ではナチュラルチーズなどの乳製品や生ハムなどの食肉加工品でリステリア菌による食中毒が発生しています。日本でも豚肉などによる食中毒の報告のあるエルシニア菌は、発熱、下痢、腹痛を起こします」(大村氏)

■野菜を段ボールごと入れるのはNG

 こうした食中毒菌から身を守るには冷蔵庫はどう使えばいいのか?

「まず、冷蔵庫内にはギチギチまで食品を収納しないこと。冷気が行き渡らないだけでなく、冷蔵庫の扉の開け閉めに伴う温度上昇で細菌が増殖してしまいます。当然、扉の開閉はスムーズに回数を少なくする必要があります。加熱など料理したものはラップ掛けするか、容器に入れて上段に置くといいでしょう。逆に肉などはラップ掛けして一番下の段に入れましょう。肉汁が垂れて他の食品が感染するケースも考えられます」(加藤教授)

 野菜や果物を段ボールごと冷蔵庫に入れるのはやめた方がいい。

「カビや異物混入の原因となります。冷蔵庫のドアパッキンが黒ずむのは、カビが繁殖したから。カビは低温でも増殖します」(大村氏)

 解凍は冷蔵庫内か流水で行う。常温解凍すると、細菌が食中毒の危険域にまで一気に繁殖しかねない。卵は割った状態での保存は禁物。一度に大量に作ったカレーやシチューなどを冷蔵庫に鍋ごと保存するのも避けたい。

「ウエルシュ菌と呼ばれる食中毒の原因菌は、熱に強い芽胞を作ります。そのため高温でも死滅しません。カレーやシチューなどを大量に作ると、加熱時に他の細菌が死滅してもウエルシュ菌の耐熱性の芽胞は生き残るのです。結果、室温で大量に寝かせると、温度が下がる時にウエルシュ菌が一気に増殖。その状態で2時間以上放置すると、冷蔵庫に入れても、それを食べると、小腸内で増えて毒素を放出、発熱、腹痛、嘔吐、下痢などで苦しむ可能性があります」(女子栄養大学・上田成子教授)

 大量に作った料理を冷蔵庫で保存する際は、すぐに冷えるよう小分けにして冷蔵庫に入れる。食べる前には空気が触れるようよくかき混ぜ、十二分に加熱することだ。

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