40代以降は要注意 我が家の風呂場やトイレでの死を防ぐ

風呂場で亡くなる人は交通事故死者数の数倍
風呂場で亡くなる人は交通事故死者数の数倍(C)日刊ゲンダイ

 寒くなって最も危険な場所は実は自宅の「風呂場」や「トイレ」であることをご存じか。2015年は年間1万9000人が風呂場で亡くなったが、これは交通事故死者数の4倍にあたる。日本法医学会の調査によると、浴室での死亡は10月下旬あたりから増えはじめ、12月、1月にピークを迎えるという。一方、突然死のうち約5%は、高齢者のトイレでの脳卒中や心筋梗塞。これからの季節、無事に風呂やトイレをすませるにはどうしたらいいのか? 「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・港区)の福永篤志医師に聞いた。

「入浴中の主な死亡原因は、虚血性心疾患などの心臓病、脳血管障害、溺死です。それには温度差が関係しています。暖かい居間などから寒々とした風呂場に移動したり、熱いお湯につかることで、心臓や血管などに負担がかかり、心疾患や脳梗塞などが起きるのです。これが『ヒートショック』といわれるものです」

 ヒートショックはトイレでも起きやすく、高血圧、糖尿病、動脈硬化症、心疾患、脳卒中などの人はそのリスクが高まることが知られている。 

 また、冬の風呂場で亡くなる人の9割が65歳以上だが、残り1割の多くは40~65歳。消費者庁が55歳以上を対象にした調査でも、1割が入浴中にのぼせたり、意識を失ったりしてヒヤリとした経験をもっていた。40、50代も安心はできないのだ。

 では、寒い日の風呂場では何に注意すればいいのか?

「入浴により温度が急激に変化すると、血圧が大きく変動し、失神したり浴槽内で溺れやすくなります。それを避けるには入浴前に浴室や脱衣所を暖めることです。シャワーで湯を浴槽にためると、蒸気で浴室が暖まります。沸かし湯なら、ふたを外して沸かすといいでしょう」

■飲酒後のおしっこで失神も

 寒くなると長風呂をしたくなるが、入浴は10分までが目安。のぼせてボーッとすると、体温が湯の温度まで上昇し、熱中症になりかねない。

「お湯の温度は41度以下にしましょう。半身浴は体温がゆっくり上昇するので全身浴より心臓への負荷が少ないが、長風呂だと体温が上昇する可能性があります」 

 入浴中は急に立ち上がってはいけない。体への水圧がなくなり圧迫されていた血管は一気に拡張する。その結果、脳に行く血液の量が減り貧血状態になり、一過性の意識障害を起こしやすい。

「浴槽から出るときは、手すりや浴槽のへりを持ってゆっくり立ち上がること。このとき、心臓と同じ高さまで頭を下げると血圧の下がりが少なくてすみます。入浴中にヒヤリと感じたことのある人の多くは、浴槽から立ち上がった時にもっとも危険だと答えています。立ち上がるときに浴槽内に倒れて溺れるケースが多いのです」 

 お酒を飲んだ後の入浴は、脱水症状を引き起こしたり、血圧が急に高まり、心臓に負担をかけやすい。酔って注意力が低下して転倒事故を起こすこともある。アルコールが抜けるまでは入浴は控えるべきだ。

 高齢者は、食後に血圧が下がる食後低血圧により失神しやすくなる場合もある。食後すぐの入浴も避けた方が無難だ。体調不良のときや睡眠薬などを服用した後は、気温が低下する深夜や早朝の入浴は注意が必要だ。 

「一緒に暮らしている人がいれば入浴前に一声かけましょう。入浴事故後に発見が早かったおかげで死を免れたケースは少なくありません」

 寒いときはトイレも温めておこう。

「お金に余裕があれば、トイレ用ヒーター、温水暖房便座を準備する以外に、トイレの窓のカーテンや、断熱シートをつけるのも手です。トイレではマフラーやカーディガンなどを身につけましょう。便座には、カバーをつけるのがいいでしょう」

 トイレでの高齢者の脳卒中や心筋梗塞の8%は排便中に起きている。

「腹圧をかけていきむと全身の血圧が上がります。便秘にならないよう運動をし、ヨーグルトや野菜を取りましょう」

 トイレで忘れてならないのは排尿後失神。ぼうこう内の尿が一気に減ることで迷走神経反射が起こり、心臓に戻ってくる血液が減って脳が虚血状態になり失神する。

「血流不足で脳の細胞が壊れないように体の活動を強制終了させて脳を守る仕組みです。大量にお酒を飲んだ夜、トイレに立ったときに起こりやすい。倒れたとき便座に頭を強打することも多く、誰でも起こるので注意が必要です」

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