専門医が解説 白内障手術で知っておくべきポイント

遠くは見えても読書にはメガネが必要
遠くは見えても読書にはメガネが必要(C)日刊ゲンダイ

 加齢が主原因の白内障は、長生きすればだれにもリスクがある。白内障治療が専門の慶応義塾大学医学部眼科学教室・根岸一乃教授に話を聞いた。

 白内障は目の中の水晶体が濁り、見えづらくなる疾患だ。生活に不自由を感じたら、水晶体を「眼内レンズ」に替える手術が検討される。

 手術自体は比較的困難なものではないが、中には手術後に不満足を覚える患者もいる。

 手術が失敗したのではない。手術によって得られた「見え方」と、本人が望むそれに乖離があるためだ。

 眼内レンズには、1カ所にピントが合う「単焦点レンズ」と、複数箇所(日本で承認されているのは2カ所)に焦点が合う「多焦点レンズ」がある。保険適用になっているのは前者だ。

「単焦点レンズは非常に優れた眼内レンズですが、『遠く』か『近く』かのどちらかにピントが合うように度数を決めるので、手術後はたいていメガネが必要になります」

「遠く」に合わせた場合、本を読むなど近くを見る時はメガネが必要。「近く」であれば、映画観賞や車の運転時にメガネが必要になる。最近は「中間」という選択肢もあり、「遠く」または「近く」を見る時、必要に応じてメガネをかける。

 この「遠く」「近く」を医者が説明する場合、「遠く」であれば多くは目元から4メートル以上、「近く」は40センチ以下を指す。ところが患者のイメージする「見える距離」はそれと違うことが往々にしてある。

 100メートル先が見えるイメージで「遠くを見えるように」と伝え手術を受けると、術後「見えない」となる。「近く」にピントを合わせると、本は読めても楽譜の音符は読みづらい。

「認識のズレは手術後の不満足につながりかねない。すべてはかなえられませんが、手術前に『どう見えるようになりたいか』『この見え方は困る』ということを、具体的に医者に伝えるべきです」

 ただし、乱視があったりすると、ピントが正しく合っていてもメガネがないと見えづらい。また、標準的でない目の形による「計算誤差(眼内レンズ度数の計算誤差)」があったりすると、希望とは違う見え方になる。

「乱視矯正の眼内レンズもありますが、全員に適応ではない。計算誤差に関しては現在の医療技術では完全には回避できません」

■多焦点レンズにもそれぞれ特性が

 もし、メガネを極力かけたくないのなら、「多焦点眼内レンズ」がある。

「単焦点レンズの場合、手術後にメガネが必要ない人は2割以下。多焦点レンズでは8割程度にメガネが必要ないといわれています」

 多焦点レンズにはデメリットもある。まず、保険対象外なので費用がかかる。医療機関によって違うが、だいたい片目で30万~40万円かかる。

 次に、すっきり見えるようになるまで手術から3~6カ月ほどかかることがある。

「遠く」「近く」の2つに焦点が合っているため、脳が慣れるのに時間がかかるのだ。まれではあるが、どうしても慣れず、頭痛やめまいに襲われる人もいる。

「神経質な人は多焦点レンズは向いていません」

 さらに、若い頃のように遠くから近くまですべての距離にピントが合うわけではないので、多少メガネが必要になることもある。 

 そして、多焦点レンズすべてに言えることだが、薄暗いところや暗いところでは「光がにじむ、流れる」見え方(グレア・ハロー現象)になり、夜の運転時などに困難なことも。

 とはいえ、最近発売されたグレア・ハロー現象を軽減するように作られた多焦点レンズなど、同じ多焦点レンズでもさまざまな特性がある。

「多焦点レンズでは、過剰な期待をせずに、それぞれの特性をよく知って選ぶといいでしょう」

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