専門医がポイント解説 必要最低限の薬で「うつ病」を治す

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 薬を飲んでいるのにうつ病が良くならないのは、もしかしたらもとの原因が解決されていないからかもしれない。

 うつ病の症状と原因を4層のピラミッド(イラスト「心の不調ピラミッド診断法」参照)から読み解き治療を行っているのが、「千村クリニック」(東京・豊島区)の千村晃院長だ。目に見えて表れる症状はピラミッドの「4階」で、それらの原因として考えられる職場や家庭などからくるストレスは「3階」に該当する。

「一般的にこれらに対して治療をし、環境改善をはかったりしますが、実は目に見えていない部分、本人が自覚していない部分こそが現在の症状に関係している。それがピラミッドの『2階』、さらに『1階』です」

 Aさんは子供の頃、小柄な体形で運動神経が鈍く、小学・中学時代は同級生にからかわれることが多かった。就職して一人暮らしを始めると、食生活はインスタント食品か市販の弁当が中心になり、体調を崩しがちになった。会社の体育会系の社風についていけず、ちょっとした冗談でも「否定された」と気にする毎日が続き、うつ状態や不眠に悩むようになり、うつ病と診断された――。

「食事、運動、睡眠などの生活習慣や成育歴、過去の人間関係などを通じて長い時間をかけてつくられた考え方の癖や生きづらさに患者さん自身が気づくことが、症状を改善する上で必要不可欠です。専門用語では『認知のゆがみ』といいます」

■体の病気が見落とされている

 加えて千村院長が重視しているのが、体の病気の見落としだ。

 うつ病など精神の病気は「器質的疾患がない」ことが大前提となる。器質的疾患とは、検査でわかる体の異常だ。

「うつ病と似た症状のある体の病気は数多い。しっかりと除外診断できていればいいのですが、検査自体が行われていなかったり、検査は受けているがギリギリ正常範囲だったため『問題なし』とされている。別のクリニックでうつ病治療を受けても良くならなかった患者さんを診ると、かなりの確率で体の病気が隠れているのです」

 鉄欠乏性貧血、甲状腺機能亢進症・低下症、睡眠時無呼吸症候群、LOH症候群(男性の更年期障害)などだ。ビタミン、ミネラルの不足、何らかのホルモン分泌異常なども無視できない。千村院長は、血液検査、体重、血圧、体温など身体検査を入念に行ってデータを慎重にチェックする。患者の納得のもと、ビタミン、ミネラルなどを調べる保険適用外の検査を行うこともある。

「体の病気が長く放置されたことに成育歴や栄養状態が重なり、こじれたうつ病状態になっている人もいます」

 体の病気があればその治療、加えてカウンセラーによる認知行動療法や勉強会などの定期的な実施によって、千村クリニックでは必要最低限の薬の使用でうつ病の回復と再発防止を目指す。

 これまで他院で複数の薬を処方されていた人は、健康、栄養、運動に気を付け、生活習慣を改善しながら少しずつ減薬し、半年から1年ほどで断薬に至る。ただし、問題が根深い場合は、数年かけて取り込む必要があるという。

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