胃の不調を軽んじない “みぞおち痛”は命に関わる病気かも

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「みぞおち」が痛い。胃の調子がよくないだけだろうなんて軽く考えてはいけない。ひょっとしたら命に関わる病気かもしれない。

 主婦のSさん(56歳)は、みぞおちの痛みが続いたことで近所のクリニックを受診した。胃カメラ検査を受けたが異常は見当たらない。ひとまず処方された胃薬を飲んでも、ちっとも治まらなかった。

 そこで、消化器専門医のいる医療機関をあらためて受診。胃カメラとエコー検査が行われ、膵頭部に1センチ未満の大きさの膵臓がんが見つかった。

 すぐに他院で手術が行われ、がんのある膵頭部と転移があったリンパ節を切除。手術から2年が経過し、今も元気に暮らしている。

 日本消化器病学会専門医の江田証氏(江田クリニック院長)は言う。

「膵臓は左右に細長い臓器で、膵頭部、膵体部、膵尾部にわかれます。Sさんのように膵頭部にがんができた場合、比較的早い段階でがんが胆管や膵管を塞いでしまうことが多く、閉塞性の胆管炎や膵炎を起こして痛みが表れます。膵頭部は胃の裏側にあるので、みぞおち付近が痛むのです。Sさんはその痛みを手がかりに、幸い早期に発見することができました」

■膵臓がん、肝臓がんが見つかったケースも

 江田氏のクリニックには、Sさんのように「みぞおちが痛くて胃の検査を受けたが異常はない。胃薬を飲んでもよくならない」と訴えて他院から転院する患者がたくさんいるという。

 胃カメラで異常が見つからなくても、腹部のエコー検査やCT検査を行うと、膵炎、胆のう炎、胆管炎といった病気だけでなく、膵臓がん、胆のうがん、胆管がん、肝臓がんなどの命に関わる病気が隠れているケースも少なくない。

「みぞおちの部分には、いくつもの臓器が入り組んで重なり合っています。みぞおち付近の皮膚のすぐ下には肝臓があり、その裏が胃と十二指腸です。胃の裏側には膵臓、胃の右側には胆のうや胆管があります。これらの臓器の疾患による痛みは、みぞおちの痛みとして表れるケースが多いのです。胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんといった胃の病気でもみぞおちに痛みが表れますが、100%が胃の痛みというわけではないので注意が必要です」

 他院で胃潰瘍の疑いがあると診断された男性が薬を飲んでもみぞおちの痛みが改善されないことで来院。エコー検査を行ったところ、肝臓に8センチ大のがんが見つかったケースもある。

「肝臓は『沈黙の臓器』と呼ばれ、痛みを感じる神経がありません。肝臓にできたがんが大きくなってきて、肝臓の被膜が引き伸ばされることでみぞおち付近に痛みを感じるようになります」

 みぞおちの痛みは、本人には胃の痛みとして認識される。しかし、そう思い込んでいると、重大病を見逃すことにもなりかねない。

「医師の中にも、みぞおちの痛み=胃の痛みと思い込んでいる人がいるので注意してください。みぞおちの痛みで医者にかかる時は、胃カメラ検査と一緒に腹部エコー検査や造影CT検査を行ってもらうようにしましょう。胃や腸の中にはガスがあってエコーでは見ることができないため、胃カメラは必要です。しかし、逆に胃カメラでは膵臓や肝臓などは見えません。胃の周囲にある膵臓、肝臓、胆のう、胆管といった臓器はエコーやCTで見る必要があります」

 また、みぞおち付近に位置する臓器ではないが、狭心症、心筋梗塞、腹部大動脈瘤といった心血管疾患によってみぞおちが痛む場合もある。心臓や血管の痛みは、みぞおちや背中などの痛みと同じく脊髄を通って脳に伝えられる。このとき脳が痛みが起こっている箇所を取り違えると、一見、関係のない箇所に痛みを感じる。「放散痛」と呼ばれるものだ。

「心臓疾患の場合、高血圧、高血糖、高脂血症や肥満といったリスクファクターを抱えているケースがほとんどです。こうしたリスクを抱えていてみぞおちが痛いと訴える患者さんは、必ず心電図検査も行います」

 みぞおちの痛みが続く人は、胃カメラ検査だけでは足りないのだ。

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