男性も知らないと後悔 なぜ妊婦はお酒がNGなのか

お酒の力で子づくりもダメ
お酒の力で子づくりもダメ(C)日刊ゲンダイ

 妊娠がわかってからは禁酒しているが、妊娠初期は気付かずにお酒を飲んでいた。そんな女性は少なくない。それをうかがわせるのが日本の女性の飲酒率だ。妊婦は2005年の16.1%から13年には4.3%と激減したが、妊婦以外の若い女性は、一部の年代で男性を上回るなど男女差は縮まっている。これに危機感を抱く医療関係者は多い。なぜ妊婦にお酒は大敵なのか? 国立病院機構「久里浜医療センター」(神奈川県横須賀市)の岩原千絵医師に改めて聞いた。

「妊婦さんがお酒を飲むと、胎盤を通して赤ちゃんに直接、アルコールが届きます。つまり、妊婦さんの飲酒は胎児にお酒を飲ませているのと同じなのです」

 胎盤は妊婦と胎児をつなぐフィルターのような働きをしている。アルコールはそのフィルターを通り抜けてしまう。

「妊婦さんの飲酒は胎児性アルコール症候群のリスクを高めることがわかっています。頭が普通より小さい小頭症、低体重、特異な顔貌といった外見的なものから、脳が十分発達しないまま生まれることによる言語や学習の障害など、多くの症状が指摘されています」

 最近は、成長してからの注意欠陥多動性障害(ADHD)など精神疾患との関わりもわかってきているという。

「少量のお酒ならば問題ない」「飲酒期間が短いから大丈夫」と思い込んでいる人がいるが、根拠はない。「この量なら安全」という基準はないのが実情だ。

「動物実験では、アルコールを少量・長期間摂取するよりも、大量に短期間に摂取する方が危険であることが示されています。妊娠中はどの時期も飲酒は大敵ですが、妊娠初期はより危険性が高いといわれています」

■子供に障害や疾患が生じる可能性が高くなる

 国内の調査では、胎児性アルコール症候群の赤ちゃんの割合は1000人のうち0.1~0.2人。しかし、これはかなり控えめな数字と考えた方がよさそうだ。実際、米国小児学会は、子供に障害や疾患が生じる可能性は「妊婦が飲酒しないケース」に比べて「妊娠3カ月目までに飲酒」した場合では12倍に、「妊娠中の9カ月間くらい継続的に飲酒」し続けた場合は65倍に高まるとの研究結果を発表している。そのうえで「妊婦はお酒を一切飲んではいけない」と呼びかけている。

 ではなぜお酒は胎児に悪影響を与えるのか? それはお酒が薬物の一種であり、大人と同量を胎児が摂取すれば、その影響がさらに強く表れるからだ。

「2007年のWHO(世界保健機関)の評価では、飲酒は口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸と女性の乳房のがんの原因となるとされています。アルコールそのものに発がん性があり、少量の飲酒で赤くなる体質の人は、アルコールが代謝してできる毒性の強いアセトアルデヒドが食道がんの原因となるとも結論づけています。先日の米臨床腫瘍学会のがん予防委員会も、初めて飲酒の危険性を公式に認めています」

 しかも、このお酒による悪影響は日本人の女性に、より出やすいことがわかっている。

 アセトアルデヒドは「2型アセトアルデヒド脱水素酵素」(ALDH2)によって無毒化される。この遺伝子には、分解力が強い正常型と弱い欠損型があり、いずれのタイプかは両親から受け継がれる2つの遺伝子によって決まる。

「日本人は2つの遺伝子のうち片方が欠損型の人が半分近くいて、アセトアルデヒドが体内に蓄積するタイプが多い。そのうえ女性は男性に比べてアルコールの代謝速度が遅く、代謝能力が低いといわれているのです」

 妊娠期間は、生まれてくる子供の能力を決める大切な時期。しかし、妊娠15週までの初期段階では妊娠に気が付かない女性も多い。

 子づくりを意識し始めたら女性はもちろん、男性もその重要性をよく理解して、女性の禁酒に協力しなければ後悔することになる。それはカップルだけの問題ではなく、将来の社会負担にもつながる問題だ。

 お酒から妊婦を守る風潮を盛り上げることが大切だ。

関連記事