治らない喘息に新治療 気管支サーモプラスティの実力とは

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 喘息の新治療として注目を集めているのが「気管支サーモプラスティ」だ。全国100カ所以上の病院で400を超える実施症例がある。聖マリアンナ医科大学呼吸器内科・峯下昌道教授に聞いた。

 喘息は、慢性的な気道の炎症により、気管支平滑筋が収縮し、気管支の狭窄が引き起こされる病気。吸入ステロイド薬を中心とした薬剤を日常的に服用する「予防治療」で、喘息発作の抑制は高い率で可能だ。

 ところが、喘息治療のガイドラインに沿った治療を行っても喘息発作を抑えられない「難治性喘息」が10%程度存在する。この難治性で18歳以上の患者を対象にするのが、気管支サーモプラスティ。2015年から健康保険適用になった。

「喘息発作は気管支の壁の平滑筋が収縮して起こります。気管支サーモプラスティは、平滑筋を加熱して収縮しないようにする治療法です」

 右の肺には上葉、中葉、下葉、左の肺には上葉と下葉がある。気管支サーモプラスティでは左右の上葉と下葉の平滑筋を加熱。「片方の下葉↓もう片方の下葉↓左右の上葉」と3回に分けて行う。1回治療すれば3週間以上間隔をあけ、症状が安定していることを確認して次の治療を行う。

 同大の場合、喘息発作予防のステロイド内服薬の投与を行いながら治療の前日に入院。全身状態が安定していることを確認する。

 翌日の治療では、全身麻酔下で口から気管支鏡を挿入。気管支鏡の先端から治療用のプローブを気管支内に進めていく。プローブの先端は4つのワイヤに分かれ、それらを気管支の内側に当てて高周波電流を流し、65度で10秒間加熱する。

 1カ所終了すれば、5ミリ手前に気管支鏡を動かして治療を進めていく。平均で下葉は左右各約50カ所、上葉は左右合計70カ所を加熱する。

■ステロイドの内服薬をやめられる人も

 注意しなければならないのが、治療後、大半の症例で喘息が一時的に悪化する点だ。そのため、喘息の悪化に備えて対処する。

「悪化の程度はさまざまで、ほとんど変化がない人もいれば、酸素吸入が数日間必要になるような人もいます。肺機能が治療前の8割程度に回復するのを待ち、退院となります。1回の入院期間は当院では1週間前後です」

 気管支サーモプラスティの治療方法は全国どこも同じであるものの、治療の流れは病院によって異なる。

 治療後は、徐々に喘息症状の緩和が得られていく。効果が得られる患者は、峯下教授の経験では7割ほど。ステロイドの内服薬や分子標的治療薬をやめられるような、極めて高い効果が得られた患者もいる。

 優れた治療法だが、押さえておかなければならないポイントはいくつかある。まず、前述の通り、ガイドラインに沿った標準的な治療法が効かない患者が対象。コントロール不良の喘息患者には、喘息の管理が不十分な人が少なくない。まれには「そもそも喘息ではない」患者もいる。

「難治性とされていても、喘息を専門にする呼吸器内科医のもとで適切な治療を受ければ、症状がよくなる患者さんはかなりいるとみています」

 次に、現時点では気管支サーモプラスティが有効な患者さんを事前に見極める確たる方法がない。実際に治療を行い、しばらく経過を見ていかないと有効であったかどうかが分からない。

 さらに、今世紀になって開発された治療法で、日本では約2年、欧米では7年ほどしか経っていない新しい治療法だ。治療後5年間の有効性や安全性は研究で明らかだが、10年後、20年後も大丈夫かについてはまだ情報が乏しい。

「それでもこの治療を受けてみたい」という場合は、主治医にきちんと相談を。

 なお、心臓ペースメーカー使用者、抗血栓薬服用者ら、患者さんの状況によっては治療が受けられない場合がある。また喘息が悪化している人は、それが鎮まった時期に気管支サーモプラスティを行うことになる。

 1回の治療は入院費も含めて約50万円。一般的には、このうちの3割負担になる。

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