皮膚を科学する

着心地悪いと風邪引きやすい 肌着とウイルスの意外な関係

肌さわりの良さが大事
肌さわりの良さが大事(C)日刊ゲンダイ

 米国の心理学者の実験では、触り心地のいいものを触ると、人は無意識のうちに他人に優しくなったり、協調的になったりするとの結果が出ている。これは皮膚から得られる刺激と似た心の状態が作り出されるからだ。

 それでは、常に直接肌に触れている「肌着」はどうか。手で触るのと違って、一度着てしまえばあまり着心地が気になることはないが、肌着の質が悪いと体に何か影響があるのだろうか。桜美林大学・リベラルアーツ学群の山口創教授(人間科学)が言う。

「九州大学の綿貫茂喜氏らが、3歳から5歳の子供を対象に行った実験があります。子供たちに市販の肌着と、柔らかさを25%増して作ったソフトな肌着のどちらかを着てもらい、自由に遊ばせました。そして、それぞれを着て遊んだ後の唾液と尿を採取して分析しています。すると硬い方の肌着を着たときは、唾液の分析で『免疫グロブリンA』の活性が2割以上も低くなり、尿の分析では『コルチゾール』の分泌量が2割も増加することが分かったのです」

 免疫グロブリンとは、免疫の中で大きな役割を担っている抗体タンパク質。5種類あり、「A」は人の気道や腸管などの粘膜に存在し、粘膜免疫の“主役”として局所で細菌やウイルスの感染から守る働きをしている。

 コルチゾールは、副腎皮質から分泌されるステロイドホルモンのひとつ。通称「ストレスホルモン」と呼ばれ、主にストレスと低血糖に反応して分泌が増える。コルチゾールレベルが高いと免疫力を低下させる。つまり、免疫グロブリンAが低下し、コルチゾールが増加するということは、それだけ風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすいというわけだ。

 しかし、柔らかい肌着を着た直後は「肌触りがいいな」と着心地を自覚できるが、しばらくするとそんなことすら意識しなくなってしまう。逆に、着た直後に「着心地が悪い」と感じても同じだ。なぜなのか。

「皮膚が感じる受容器は『痛覚』『触覚』『温覚』『冷覚』の4種類あり、順応しやすい刺激と順応しにくい刺激があります。肌着など、軽く触れる程度の刺激への順応性は高いので、すぐ慣れてしまうのです。だからといって、多少着心地が悪くても問題ないと思ってはいけません。無意識下でも、その刺激は皮膚を通じて常に脳に影響を与え続け、感情や体の免疫機構にも影響しているのです」

 寝具も同じ。長時間皮膚に触れるものは、肌触りの良さで選ぼう。

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