アルツハイマー病が軽症のまま? てんかん薬にかかる期待

朝丘雪路さんは4年前から自宅療養していた
朝丘雪路さんは4年前から自宅療養していた(C)日刊ゲンダイ

 死去が報じられた女優で歌手の朝丘雪路さんは、アルツハイマー型認知症(以下、アルツハイマー病)だった。根治法がない病気だが、早期にある薬を飲めば、軽症で一生を送れるかもしれないことが分かってきた。

 アルツハイマー病の治療の一つが、抗認知症薬で進行を遅らせること。アルツハイマー病を発症するとアセチルコリンという神経伝達物質が減少していくが、抗認知症薬にはアセチルコリンの減少を防ぐ作用がある。ただし服用していくにつれ、効果が薄くなる。

 一方、いま研究が行われているのが、「アミロイドβ」というタンパク質との関係だ。

 アルツハイマー病の患者の脳には発症前からアミロイドβがたまることが分かっており、神経細胞を興奮・死滅させ、認知機能を障害する。そしてアミロイドβは、てんかんにも関係している。

 東京脳神経センター病院・堀智勝院長が言う。

「2009年に、アミロイドβで誘発される神経細胞の興奮が、てんかんの引き金になるという研究結果が発表されました。ヒューマンアミロイドβを産生できるマウスを使い、脳の海馬に電極を入れて実験を行ったところ、脳にアミロイドβがたまったマウスの少なくとも65%がてんかんを起こしたのです」

 認知症とてんかんの関連を示す研究発表はほかにもある。

「軽度認知障害(認知症の前段階)患者の調査で、認知機能低下と同時期にてんかんを起こしている」「アルツハイマー病のてんかんの有病率は2倍以上」「軽度認知障害にアミロイドβを減らすてんかん薬を投与すると認知機能改善」などだ。

「高齢者のてんかんには認知症が原因のものが多い。これについては以前から分かっていましたが、認知症と診断されても、てんかんの検査・治療はほぼ行われてきませんでした。一因として、高齢者のてんかんは“非痙攣性”が大半であることが挙げられます」

■抗認知症薬で対処できないアミロイドβを減少

 非痙攣性とは、痙攣がないタイプ。典型的症状は、数分間にわたって一点を見つめる、口をモグモグ動かす、指を突っ張らせるなど。意識障害、失語、まひなどが見られることもある。

「典型的な症状でも見つけづらいのですが、ほとんど症状が表れないケースも珍しくない。てんかんの専門医でも、診断しづらい」

 アミロイドβの脳への蓄積がアルツハイマー病の発症につながり、また、アミロイドβの脳への蓄積がてんかんに関係していることを考えると、アルツハイマー病対策に、アミロイドβを減らすてんかん薬を用いた方がいい。理想は軽度認知障害段階での、てんかん薬投与。そうすれば日常生活に影響を及ばさない軽症で天寿を全うできるかもしれない。アルツハイマー病を発症してからでは、脳の神経細胞の死滅がすでに始まっている。

「高齢者ではてんかん症状が表れにくいため、米国では軽度認知障害の人には全て、てんかん薬を投与しています。日本では、物忘れ外来を受診した軽度認知障害の方に、認知症検査、脳波、MRIによるASL検査(脳血流動態評価)などをし、てんかんが確認されれば、てんかんの治療も行います」

 どれだけアルツハイマー病への進行が抑えられるかは、今後の研究課題。認知症、てんかんの検査・治療を目的とした日本脳神経外科認知症学会が2016年に設立されており、多施設共同でアミロイドβによる認知症とてんかんの大規模調査を実施予定だ。

▽昨年11月、京都大の井上浩久教授らが、iPS細胞を使い、1258種類の既存薬からアミロイドβを減らす効果がある薬3種類を特定。その一つがてんかんの治療薬で、3種類の併用でアミロイドβが作られる量を平均30%以上減らせた。

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