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ノーベル賞学者の愛弟子はオートファジー論文引用世界1位

水島昇教授
水島昇教授(提供写真)
水島昇教授 東京大学大学院医学系研究科・分子生物学分野

 東京工業大の大隅良典栄誉教授が、2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞して俄然、注目されている「オートファジー(自食作用)」。日本が世界をリードする研究分野だ。20年以上にわたり研究を続けてきた水島昇教授は、大隅栄誉教授の愛弟子の一人。これまでオートファジーの仕組みを数多く解明し、同分野の原著論文の引用回数は4万回を超え世界第1位だ。

 生物の細胞内で行われているオートファジーの主な役割をこう言う。

「私たちを形づくる皮膚や粘膜、血液などの細胞は古くなるので、どんどん新しい細胞と入れ替わっています。このように細胞自体が入れ替わる一方で、細胞の中身も常に入れ替わっています。オートファジーは、その細胞内を新鮮に保つ入れ替わりを助ける役割を果たしているのです」

 具体的には、細胞内に扁平な二重の膜が現れる。

 それが古くなったミトコンドリアなどの細胞内小器官やタンパク質(細胞質)を包み込み、丸い袋状の「オートファゴソーム」になる。

 そこへ多くの種類の分解酵素が入っている丸い「リソソーム」という器官が近づいてきて融合。その一体となった袋状の中で、細胞質がアミノ酸に分解される。

 そして、アミノ酸は袋の外に出て、新しいタンパク質の合成にリサイクルされるのだ。

■課題は分子構造のさらなる解明

 このゴミ掃除機能は、病原体が細胞内に侵入した場合も同じように働く。体内の細胞の外ではマクロファージなどの免疫細胞が病原体を退治し、細胞内ではオートファジーがその役割を果たしているという。では、オートファジーの研究が将来的に、医療へどのように応用できる可能性を秘めているのか。

「オートファジーを活性化することで、病気改善につながる使い道を探すことです。この分野の研究者の誰もが思っていることは、脳の神経細胞内に異常タンパク質が蓄積するパーキンソン病などの神経変性疾患の治療に使えないかということです。それが医療への応用のひとつのゴールであることは間違いありません」

 神経細胞は他の細胞と違って分裂(入れ替わり)せず、ほぼ一生のつきあいとなる。そのため、ゴミ(異常タンパク質)がたまりやすい。脳の神経細胞のオートファジーを活性化して、ゴミ処理能力を高めようという考えだ。

 しかし、現時点では生体内でオートファジーの活性を測定する良い方法がないことや、オートファジーを活性化させる特異的な薬剤や方法が見つかっていないなどの課題がある。それらの基礎となる分子レベルでのオートファジーの理解も、まだ道半ばだ。水島教授らは、培養細胞や実験動物を使って基礎研究に集中している。 

「病気とオートファジーの関係は、他にもクローン病やがんなど、国内外さまざまな研究機関で進められています。しかし、創薬や治療につなげるには、臨床医師や製薬会社など、もっと多くの方々にオートファジーの分野に参入してもらうことが大切だと考えています」

 水島教授は「オートファジー研究会」の責任者を務め、年1回、門戸を開いた学術会議を開催しているという。

▽1991年東京医科歯科大学医学部卒後、同大学院修了。研修医を経験後、岡崎国立共同研究機構、(財)東京都医学研究機構などを経て、2012年から現職。〈所属学会〉日本生化学会、日本分子生物学会、日本細胞生物学会

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