震災時におびえ症状も 発達障害の子供をどうケアするべき

写真はイメージ
写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 最大震度6弱を記録した大阪北部地震の被災地では、公共交通機関や電力の復旧が急ピッチで進み、大人たちは平静さを取り戻しつつあるが、気になるのは子供たちだ。昼間は元気に見えても夜は「大人から離れたがらない」「暗闇を怖がる」などおびえの症状が表れる。とくに発達障害の子供たちは、こだわりが強く変化に敏感なため、トラブルが増え、特別なケアが必要となる。震災時、小中学生の15人に1人といわれる発達障害の子供たちに対して、どのように接すればいいのか?

「大事なことは今いる場所が安全・安心だと感じさせることです。それには本人が保護者についていられるような周囲の配慮が必要です。発達障害の子供たちに指示するときは必ず『理由』を言いましょう。彼らは状況を把握し予想するのが苦手で、変化の意味を理解しづらい。それをわかったうえで接することです」

 こう言うのは発達障害治療の専門医で「どんぐり発達クリニック」(東京・千歳烏山)の宮尾益知院長だ。たとえば「今いる建物は震度7まで耐えられる構造物だから大丈夫」「もう一回揺れると、ここは危ないから安全な場所に移動しよう」「並んでいれば30分ほどでお水がもらえておいしい水を飲むことができる」など、現在の状況とこれから行おうとすることの理由を具体的に説明することが大切だという。

 被災地の子供たちには夜尿症やまとわりつき、甘え、反抗のような退行現象や悪夢や夜驚やおびえの症状が見られるが、発達障害がある場合は、いったん消失していた発達障害による症状が再出現したり、より強くなることが報告されている。

「発達障害の子供たちに接する人にお願いしたいのは“そっちに行ってはダメ”“ここに(あなたが望む品物)はない”と言うのではなく、“この場所に座って下さい”“ここにあります”と肯定的な言葉で声掛けすることです。また塾や習い事、あるいはお気に入りのグッズやテレビ番組など、震災以前の習慣や活動を続けられるようにすることは安心につながります。“非常時だからやめろ”と言うのではなく、できるだけ続けさせましょう」(宮尾院長)

■急増する大人の発達障害にも当てはまる

 発達障害とは生まれつきの脳の特性により、社会生活に困難が発生する障害のこと。コミュニケーションが苦手でこだわりが強い「自閉症スペクトラム障害」(ASD)、不注意で落ち着きがない「注意欠陥多動性障害」(ADHD)などが主な障害だ。

 こうした子供たちは“音”“人と近い距離”“不慣れな場所”が苦手だ。

「声をかけるときは平坦な口調で話しかけましょう。部屋のなかでは隅っこや布団と布団の間に挟まれていると安心します。避難所などでは集団からぽつんと離れていると安心という場合もあることを理解してください」(宮尾院長)

 また、発達障害の子供は、不安や恐怖で体が震えたり、被災生活での運動不足で体がムズムズすると、なぜそのような体や心の変化が生まれるのか、その理由を理解しづらい。それを説明してあげることも安心につながる。

「心臓の鼓動が速くなる理由がわからず、パニックになる子供たちもいます。恐怖を感じると人は自然とそうなることを話すと落ち着く場合があります」(宮尾院長)

 大きなストレスを感じている子供たちはより睡眠が大切と言うのは独協医科大学埼玉医療センター「こころの診療科」の井原裕教授だ。

「震災後、大人たちは、夜中までテレビやラジオで情報を得ようとしますが、子供は付き合わせない方がいい。子供は感受性も強く、記憶力もよすぎる。衝撃的な映像も音声も、脳裏に刻み込まれてしまいます。睡眠不足が加わると、こだわりやパニックなどの発達障害の症状が強く出ます。だから、生活リズムを変えずに震災前と同じ時刻に寝起きさせましょう」

 睡眠は生活リズムの基本。それが乱れると自閉症スペクトラム障害の人は他人の思惑を察することが下手になり、想定外の出来事にうろたえる傾向もいっそう強くなる。多動障害の子供はますます多動になり、不注意な子供はますます不注意が目立つという。

「逆に睡眠時間を増やしただけで多動が1週間で軽減することもあります。親が子供の睡眠の状態をよく見ることです」(井原教授)

 災害はいつ誰に降りかかるかわからない。不幸にして被災したときは住民同士が互いの状況を理解し、協力し合わなければかえって強いストレスを生む。

 ならば、より多くの人が発達障害の子供たちの震災時での心と行動の特徴を理解しておいた方がいい。それは急増する大人の発達障害の人にも当てはまる。

関連記事