熱中症だけじゃない 梅雨明けは“W杯脳梗塞”に要注意

4年に一度の“お祭り”で盛り上がるのもいいが……
4年に一度の“お祭り”で盛り上がるのもいいが……(C)日刊ゲンダイ

 頭が痛く、めまいがして力が出ない――。梅雨明けにこんな症状が出ると熱中症をイメージしがちだ。しかし、似た症状の脳梗塞も忘れてはいけない。先月63歳で亡くなった歌手の西城秀樹さんも48歳の6月に脳梗塞で倒れた。原因は減量や過労による脱水症状だったが、連日、眠い目をこすりながらサッカーW杯をテレビ観戦している人にとっても他人事ではない。「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・赤坂)の福永篤志医師に聞いた。

■引き金は汗、お酒、睡眠不足…

 2016年の脳血管疾患の総患者数は約117万人。がん、心臓病、肺炎に次ぐ死因第4位の病気だ。その多くは脳卒中で主に脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3種類に分けられ、死因の多くは脳梗塞だ。

「脳梗塞には脳の奥底の毛細血管が詰まるラクナ梗塞、脳の太い動脈で動脈硬化が進んで血栓ができたりして血管を詰まらせるアテローム血栓性梗塞、心臓などから血栓が流れてきて詰まる心原性脳塞栓症があります」

 夏に脳梗塞に警戒が必要な理由は血液成分が変わるからだ。血液の大半は水分で、汗をかいて水分が抜けた分だけ血小板などの血液凝固成分濃度が高くなる。

「さらに体内の熱を皮膚から放散するために末梢血管が拡張する。その結果、脳や心臓への血流が低下。血流速度が遅くなり血液はうっ滞する。梅雨以降、血栓ができやすい条件がそろうのです」

 実際、国立循環器病研究センター(大阪)によると、2008~13年の脳梗塞患者数は3~5月、9~11月、12~2月に対して6~8月が最も多かった。それに加えて今年はサッカーW杯が盛り上がっている。お酒を飲みながらのテレビ観戦はそのリスクをさらに高めることになる。

「お酒には利尿作用があります。汗で水分が少なくなった血液は尿に水分を奪われ、血液の粘着性に拍車がかかります」

■前兆となる症状に注意

 ちなみに欧米ではW杯などのサッカーの大きなイベントがあると心筋梗塞が増えるといわれる。

 睡眠不足も問題だ。試合による興奮や仕事の疲労と共に自律神経を乱すため、心房細動などの不整脈を招きやすい。

 心臓は右心室、右心房、左心室、左心房と4つの部屋に分かれている。心房は血液をためておく場所で、心室は血液を送り出すポンプの役割をする。心房細動は心房を収縮させる電気信号が乱れ、心房が細かく震える病気だ。

「実際に心房細動になると、心房が1分間に400~600回の速さで震えます。すると脈が速くなる頻脈になる。これが長引くと心臓の機能が低下して全身に必要な血液を送り出せなくなる心不全に陥ります。心房内で血液同士がぶつかり合い塞栓ができやすくなってしまうのです」

 こうしてできた大きな血栓が、血流に乗って脳を直撃すると脳塞栓を発症するという。

「心房細動で起こる脳梗塞は脳の血管の根元の太いところが詰まる心原性脳塞栓症を起こしやすい。この脳梗塞は死に至ることが多くノックアウト型脳梗塞とも呼ばれ、命が助かっても言葉を失ったり、手足が麻痺するなどの重い後遺症が残る可能性が高いのです」

 ちなみに心原性脳塞栓症は脳梗塞全体の3分の1を占め、その原因の4分の3は心房細動だといわれる。

「脳梗塞は50代を境に起こりやすくなります。睡眠時間が6時間以下、糖尿病や高血圧がある、砂糖や肉を過食している、ピルやステロイド薬を使っているなどの人は血栓ができやすい。ダイエット中の人は、食事からの水分を取れない分、多めの水分補給が必要です」

 脳梗塞は重大な事態を起こす半面、早い段階で治療すれば後遺症もなく治る可能性がある。予兆をキャッチするにはどうすればいいのか?

「脳梗塞が起きる前に時々見られるのが『一過性脳虚血発作』(TIA)です。手足の脱力やしびれ、めまいなどの症状がこれにあたります。その多くは数分で症状が消えるため、見逃しがちですが、放っておくと3カ月以内に15~20%が脳梗塞を発症し、多くはTIAを起こして数日以内に脳梗塞になるとの報告もあります」

 もっとも、これらの症状は本格的な脳梗塞の直前に出ることが多い。

「ならば目の見え方に注目するのも手です。血栓は頚動脈から脳の中に入った直後に目の動脈を塞ぎます。突然、片方の目の前が真っ暗になったら、短時間でも脳梗塞の前兆を疑うべきです」

 左の唇と左手のひらが同時にしびれ、触られても何も感じないなら脳の中の視床と呼ばれる部分の血管が血栓で詰まった可能性がある。

 血液は睡眠で長時間体を動かさない早朝が一番固まりやすい。サッカー好きな中高年は、日本代表戦後の朝はとくに気をつけることだ。

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