人生100年時代を支える注目医療

最先端の検査機器と19人の専門医で輸入感染症に立ち向かう

大曲貴夫センター長
大曲貴夫センター長(C)日刊ゲンダイ
大曲高夫センター長 国立国際医療研究センター病院・国際感染症センター(東京都新宿区)

 昨年、日本を訪れた外国人旅行者は約2870万人。5年前と比べても3倍以上に急増している。さらに今後は、ラグビーワールドカップ、東京オリンピックと立て続けに国際的なビッグイベントの開催を控えている。そこで懸念されるのが「輸入感染症」の流入だ。

 国内の感染症予防法では、危険性の高い感染症の順に「一類」~「五類」に分類され、さらに必要なときに政令で指定される「指定感染症」と「新感染症」がある。そして、最も危険性の高い一類感染症と二類感染症、新感染症を治療する特別な医療施設を「特定感染症指定医療機関」という。全国で4施設(東京、千葉、愛知、大阪)が指定されているが、同院はそのひとつ。いわば国の感染症対策を担っている。

 同院・国際感染症センターの大曲貴夫センター長(顔写真)はこう言う。

「専用病床は全国4施設で10床ありますが、そのうち4床を当センターで有しています。私たちの役割は、海外で流行する重篤な感染症の疑いのある患者さんが日本で見つかった際に、とにかく早く収容し、感染者を拡大させないように封じ込めることです」

■通訳を介した診療は13カ国に対応

 感染症病床はすべて個室で、病原体が外に漏れないように陰圧の空調になっていたり、排泄物を煮沸消毒できたり、観察用カメラが設置され、集中治療の機器が十分入るように広いスペースが取られているという。

 警戒する輸入感染症では、昔から日本でも見られた「はしか」「風疹」「結核」なども含まれるが、特に目を光らせているのは「エボラ出血熱」「MERS(中東呼吸器症候群)」「鳥インフルエンザ」など。市中の病院ではほとんど診察を経験したことのない感染症だ。

「当センターには最先端の多項目遺伝子測定機器が数種類あり、国立感染症研究所とも密に連携しているので、どんな感染症も診断できる体制を整えています。それに全国の医療機関からの感染症に関する相談も週2~3件はあります。必要であればネットワークを使って近隣の専門医を紹介することもしています」

 とりわけ外国人受診者の多い同院は、日本語を話せない患者を対象とした「国際診療部」を3年前に設置。通訳を介した診療は「英語」「中国語」「韓国語」「ベトナム語」、電話通訳を介した診療を含めると13カ国語に対応しているという。

 また、インフルエンザやノロウイルスなどの感染症の疑いのある患者の場合は、他の外来患者にうつさないように同センター内にある専用の診察室で対応。常勤医師10人、非常勤医師9人で診療にあたっている。

「蚊が媒介するマラリアは国内の発症はありませんが、日本人が海外渡航して帰国してから発症するケースが毎年60例ほど報告されています。そして、少ないが亡くなる人もいて、その原因の多くは診断の遅れです。帰国して体調が悪くなったら、医師に渡航歴を必ず伝えることが重要です」

 マラリアの治療薬は、国内では数種類の内服薬が承認されているが、重症例で使う点滴薬は未承認。同センターでは、その点滴薬も常備しており、必要であれば臨床研究として使用しているという。

▽1997年佐賀医科大学医学部卒。聖路加国際病院内科、テキサス大学ヒューストン校感染症科、静岡がんセンター感染症科を経て、11年から同院勤務。12年同センター長、15年国際診療部部長兼務。〈所属学会〉日本感染症学会、日本臨床微生物学会、日本渡航医学会など。

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