救命救急専門医が語る 熱中症リスクの高い人とその対処法

就寝時もエアコンはつけっぱなしに
就寝時もエアコンはつけっぱなしに(C)日刊ゲンダイ

 例年、梅雨明け直後に急増する熱中症の患者数は、気温が高くても8月以降は落ち着きを見せる。記録的猛暑といわれ、緊急搬送された熱中症患者数は5万6000人、死亡者数が1718人に上った2010年でさえ、東京都監察医務院の集計による熱中症の死亡例は7月後半に集中。8月からは減少した。暑さに体が慣れる「暑熱順化」が完成するからだが、今年はどうか。日本救急医学会監修の「熱中症~日本を襲う熱波の恐怖~」(改訂第2版、へるす出版)を企画・編集した帝京大学医学部付属病院高度救命救急センター長の三宅康史教授に聞いた。

「今年は猛暑で熱中症が際立って多いといわれますが、梅雨明けから緊急搬送される熱中症患者数が急増するパターンに変わりはありません。唯一異なっているのは熱波が途切れないことです」

 実際、関東甲信越地方では6月29日ごろに、九州北部から北陸にかけては7月7日前後に梅雨明けしたが、26日までに東京で連続19日間、大阪では31日までに24日間、最高気温が30度超の日が続いた。台風の影響でひと息ついた熱中症だが、今後もさらなる警戒が必要だ。


 子供の熱中症はマスコミで大きく取り上げられるため目立つが、多くは軽症だ。深刻なのは社会的つながりの薄い高齢者だという。

「マスコミは熱中症の過去の緊急搬送データなどから『高齢者が熱中症になりやすい』と言いますが、高齢者だから熱中症になるわけではありません。高齢者世帯であっても子供たちが頻繁に顔を出し、『冷蔵庫に何も入ってないじゃない、ちゃんと食べてる?』『食べてるよ』『エアコンはケチらずにつけなきゃダメ』などと言い合える関係性があれば熱中症にはなりにくいのです」

 仮に家族が近くにいなくても、社交性のある高齢者なら新聞やテレビが連日報じる「熱中症関連ニュース」を見て自身で警戒するし、周りの者も放っておかないだろう。

 ところが、1人あるいは夫婦2人だけで、新聞もテレビも見ない、人付き合いが乏しい高齢者世帯だと、「これくらいの暑さならエアコンを我慢しよう」「きょうは食欲がないから食事は抜こう」などと考えてしまう。それが高齢者に熱中症が目立つ背景になっている。実際、東京都監察医務院の15年夏の熱中症死亡者集計では熱中症死亡のほとんどが屋内で起こっており、その65.6%が1人暮らしで、90.3%がクーラーを使用していなかった。

「こうした傾向は高齢者だけにとどまりません。それ以外の人でも定職に就いていない、収入が低いなど経済的に恵まれていない人、あるいは身体的に恵まれていない人は、コミュニケーション力が低く、熱中症のリスクが高くなりがちです。実は熱中症は人的つながりと相関関係のある病気であり、日本社会の人的つながりや経済状況などを映す社会の鏡という側面があるのです」

■エアコンは自分が心地良い室温と湿度に設定

 中途半端な熱中症の常識が、増加や重症化に拍車を掛ける場合もある。よく聞くのが「エアコンはつけていたのに熱中症になった」という人のケースだ。

「救急隊員に聞くと『確かにエアコンが動いていたのですが、それは冷房でなく乾燥(ドライ)だった』という場合が多い。また、室温28度がベストと聞いてエアコンのリモコンを28度に設定している人も多いのですが、それはエアコンの送風口の温度を指すのか、それともエアコンが当たっている人の近くの温度を指すのかで違ってきます。また、フィルターにホコリがたまっているエアコンか、最新式かでも設定温度と実際の室温は違ってくるでしょう。それを考えずに、ただリモコン設定を28度にしているケースが多いのです」

 正しくは、部屋の中に温度計と湿度計を持ち込み、健康な人なら自分が心地良い室温と湿度に設定する。喉が渇いた自覚の乏しい高齢者は室温を常に30度以下になるよう、エアコンの設定を小まめに変えることだ。

「水を飲んでいたのに熱中症になった」という人も勘違いが多い。朝、昼、晩に1杯ずつしか水を飲んでいないのに「水を飲んでいた」と訴える人もいる。

 しかし、本来は汗をかいた分だけ給水が必要で、食事以外で1日2リットル程度が必要とされる。

 特に高齢者は体の水分の割合が、赤ん坊が70~80%、大人60%に対して50%と低い。しかも、あまり体を動かさないからお腹が減らない。だから本来は食事から取るべき水分が不足する上、低栄養で体に必要な電解質が不足しがちだ。

 さらに、夜間頻尿を避けるためという理由で自ら飲食を控えてしまうことが多い。その結果、熱中症が重症化することが多いのだという。

 水を小まめに飲む、就寝時を含めエアコンをつけっぱなしにする、風通しの良い服装にする、子供に無理な運動はさせないなどの注意点はあるが、最大の熱中症の予防策は「社会的つながりの薄い人を極力減らすこと」だ。熱中症が社会的な病気の側面があることを忘れてはいけない。

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