ズブ濡れでクーラーは危険 真夏の「低体温症」は命も奪う

夏の野外コンサートも注意が必要(写真はイメージ)
夏の野外コンサートも注意が必要(写真はイメージ)(C)日刊ゲンダイ

「冬山などで寒風や雪、冷雨にさらされることで起きる病気だろう。都会暮らしの俺には関係ない」――。勝手にそう思い込んでいる人も多いが、間違いだ。真夏の都会でも「低体温症」になることはあるし、放っておけば意識を失い、呼吸停止などから命を失うことにもなりかねない。アウトドア好きは注意したい。

「低体温症は、猛暑の合間に遭遇するゲリラ豪雨(局地的大雨)で注意すべき病気のひとつです。びしょ濡れになっても気温が高ければいいのですが、ゲリラ豪雨後に上空の寒気が吹き下ろしてくることがある。濡れた体から一気に気化熱が奪われ、体温が急激に下がる場合があるのです」

 こう言うのは「赤坂パークビル脳神経外科」(東京・赤坂)の福永篤志医師だ。人体の中心部の深部体温は通常36度から37度程度に保たれている。それが35度を切ると低体温症と診断される。

 最初は皮膚表面の血管が収縮して鳥肌が立ち、熱を得るための筋肉の収縮から、体がガタガタと激しく震える。やがて口ごもる話しぶりになり、よろめいて歩くようになる。

 体内の熱産生が追い付かず、深部体温が32度以下へと低下すると中等度の低体温症で体の震えは止まるが、今度は意識障害からもうろうとなり、支離滅裂なことを言い始めたり、他人の呼び声に反応しなくなる。

 さらに28度以下の重症となると半昏睡状態に陥り、脈拍は微弱となる。そして心停止に至ることもある。

■都会でも発症する

 とはいえ真夏の低体温症はせいぜい肌寒い山や高原で起きる病気で、都会では無縁と思う人もいるかもしれない。しかし、それも思い込みに過ぎない。2013年7月、東京・港区の秩父宮ラグビー場で開かれた男性アイドルグループ「NEWS」の野外コンサートが豪雨で中止になった際、手当てを受けた75人の中に多くの低体温症患者がいたことが報じられている。「北品川藤クリニック」(東京・北品川)の石原藤樹院長が言う。

「花火大会やスポーツ観戦、野外コンサートなど、大勢の人々に囲まれて身動きが取れず風雨に打たれるしかない、うまく雨宿りできてもクーラーががんがん効いていて寒けを感じたなど、低体温症は本人や周囲がそうと認識していないだけで真夏の都会でも発症している可能性があります。お祭りなどで水をかけられ、ズブ濡れのままクーラーなどにあたり寒けを感じて震えている人や、プールなどでの水遊びで唇が紫色に変わり体がブルブルと震えている子供は、低体温症の状態かもしれません」

 低体温症は、体温調節機能が完成していない子供や、いつもクーラーの効いた中で生活していて体温調節機能が衰えている女性や高齢者に起こりやすい。

 低体温症で命を落とす可能性が高いのは川での水遊びだ。川は海に比べて浮きにくく、水が冷たい。しかも流れがあるので体温が下がりやすい。川遊びによる水難事故の多くは低体温症が原因だといわれ、警察庁「水難事故」統計によると、17年は1341件の水難事故が発生し、679人の死者・行方不明者を出した。うち子供は31人で、65%以上は川での事故だった。

 低体温症は持病を悪化させるだけでなく、持病が原因で低体温症を招くこともある。とくに気をつけたいのが糖尿病だ。神経障害の合併症が起きている人は、急激な気温低下に合わせて基礎代謝を上げて深部体温を上昇させることが難しい。

 実際、それを証明する研究がある。55歳以下で朝食を抜いた集団を、インスリン治療を行っていて自律神経障害のある群、同じくインスリン治療中だが自律神経障害のない群、健常人群に分け、16度に保たれたカバーオールで45分間全身を包み、深部体温の変化を比べた。

 結果、自律神経障害のある糖尿病の群は、冷気にさらされても手や足の血管を収縮するなど体温を維持するための反応が起きずに一部深部体温が下がった。

 一方、健常者群は代謝を上げて対応し、深部体温が0.2度上昇。同じく自律神経障害のない糖尿病の群も深部体温が0.15度上昇した。

「自律神経障害を持つ重度の糖尿病の人が怖いのは、低体温症だけではありません。低体温はインスリン分泌を変動させることがあるため血糖値が急変し、糖尿病性ケトアシドーシスにもつながりかねません」(石原院長)

 では、低体温症から身を守るにはどうしたらいいのか?

「大事なのは寒さ対策です。人が大勢集まる場所に出かける際はポケットに百均のビニールカッパを忍ばせておくのも手です。突然の豪雨を察知したときはすぐに着込んで濡れないようにすれば体温を奪われないで済みます」(石原院長)

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