実録 父親がボケた

<20>認知症との付き合い方は否定せず、急がせず、焦らせず

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 月額利用料が低めかつ安定した特養ではあるがオプションもある。月1回のヘアカットや想定外の薬剤費など、全て市価に比べれば安価だが、ちりも積もれば何とやらだ。

 ケチくさい話だが、具体例を記しておこう。父は「謎のティッシュちぎり癖」があり、まとめ買いしておいたティッシュが一瞬でカラになったことがある。日常生活の細かい部分に目を配る職員が補充してくれたりもする。

 ただし、後日、利用料とともに代金が請求される。家族が用意しておけば激安品で済んだのに、肌触りのよい超高級な製品(母や私は絶対買わないタイプ)が用意されて、無駄な出費となることもある。数十円~数百円でも、長い目で見たら大きい。そこは極力家族で準備しようと、母と誓った。

 ちなみに母と私は連絡ノートを作り、訪問日に何があったか、書きつづるようにしている。時々父もそこに参戦して、何かを書いているのだが、文字と呼べるものではない。それも楽しいし、一種の機能訓練になる。部屋には認知症やケアマッサージの本も置いてある。

 足の裏をオイルマッサージすると、父は不覚にもよだれを垂らしたりする。また、水虫や湿疹、あざなどの皮膚の異変にも気づくことができる。たとえ素人であっても「見る」「触れる」の手足マッサージは効果的である。

 本を読んだり、認知症の講座を受けたりして学んだのは、「否定しない」「急がせない」「焦らせない」。さらに自己流で言えば、「友人や知人、会社員時代の人の訃報やお誘いは、父に伝えない」「父の怒りや寂しさを真に受けず、やんわり右から左へ受け流す」ことだ。同じ質問を1時間のうちに8回されても、8回とも同じテンションで答えることができるようになった。

 入所して3カ月経つ。確かに父は落ち着いてきた。3カ月が勝負というのは本当だった。今は、親の施設入居で迷っている人、罪悪感を抱いている人の背中をそっと押してあげたい気持ちである。

吉田潮

吉田潮

1972年生まれ、千葉県出身。ライター、イラストレーター、テレビ評論家。「産まないことは『逃げ』ですか?」など著書多数

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