意外に知らないホルモンの実力

臓器に情報を伝達し体調を微調整する“メッセージ物質”

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 健康や医療の話で、よく耳にする「ホルモン」。体内で分泌されている物質であることは分かるが、いったいどんな働きをしているのか。人の健康にどう関わっているのか。

 知っているつもりでよく分からない、代表的なホルモンの役割について知っておきたい。

 人は母親のおなかにいるときから死ぬまで、ずっとホルモンの影響を受けている。ホルモンによって生命が維持されているといってもいい。どんな物質なのか。東京都立多摩総合医療センター内分泌代謝内科の辻野元祥部長が言う。

「ひと言でいえば、血流にのって、離れた細胞(臓器)に情報を伝達する“メッセージ物質”と考えてもらえばいいでしょう。それによって、体内環境を一定に保ったり、体の成長、性の決定や生殖、体の防御など、体内のあらゆる働きを調整しているのです」

 現在、少なくとも100種類以上が発見され、血液中を行き交う各ホルモンの量は「50メートルプールにスプーン1杯分ほどの濃度」の、ごく微量で作用しているという。

 ホルモンは特殊な細胞が集まった内分泌腺でつくられ、そのある場所を内分泌臓器という。ホルモンを分泌する主な臓器は、脳内の視床下部や下垂体、甲状腺、すい臓、副腎、肝臓、腎臓、腸、卵巣、精巣などがある。

「数多くのホルモンが全身をめぐりますが、それぞれ厳格に決められた特定の細胞だけに作用します。それは、各ホルモンの命令を受け取る特定の細胞(標的細胞)には『ホルモン受容体』があり、カギとカギ穴の関係にあるからです。ただし、1つのホルモンに対する受容体は1種類だけでなく、全身に複数存在する場合が多く、受容体ごとに異なる作用を及ぼしているのです」

 例えば、「オキシトシン」というホルモンは分娩(ぶんべん)時の子宮収縮や授乳時の乳腺刺激をするが、男性でも分泌されていて、子供やパートナーへの愛情を高める作用をする。

 ホルモンは感情をも動かす力を持っているのだ。

 また、健康な人のホルモンは常に分泌量を適正に保つために、精密な仕組みで調節されている。

「甲状腺ホルモンを例にすると、視床下部から出たTRHが下垂体に到達するとTSHが出て、血流にのって甲状腺に届くと甲状腺ホルモンが分泌されます。しかし甲状腺ホルモンは、逆にTRHやTSHを抑える働きを持っていて、これを『負のフィードバック』と呼びます。甲状腺ホルモンが多過ぎたり、不足すると負のフィードバックが強まったり、弱まったりします」

 ほとんどのホルモンが同じような調整の仕組みを持っているという。

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