Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

4年連続患者数1位の大腸がんはアスピリンで予防できる

毎年の検便と5年に1回の内視鏡
毎年の検便と5年に1回の内視鏡(C)日刊ゲンダイ

 がんの患者数は、2014年まで胃がんがトップでしたが、15年から大腸がんが逆転。先月15日に国立がん研究センターが発表した今年の予測値でも、大腸がんが4年連続1位。男女合わせて15万2100人と、胃がんを2万3000人ほど上回っています。

 胃がんの原因は、98%程度がピロリ菌感染。子宮頚がんや肝臓がんなど感染型のがんの代表ですが、大腸がんは肉中心の食事や肥満、運動不足といったメタボな生活習慣が発症の大きな要因。これまで欧米に多いがんといわれたのが、大腸がんです。それが日本で4年連続1位になったということは、欧米化が日本に確実に定着しているということです。

 メタボな生活習慣が主因ということは、その改善で予防ができるということ。さらに早期発見の工夫をプラスすることで大腸がんによる悲劇は、最小限に食い止められるのです。肥満大国米国の人口は日本の2倍以上ですが、死亡数は米国の方が少ない。日本に先駆けて大腸がん対策を行った結果で、年齢調整死亡率はピーク時の半分程度です。

 そこで、予防のカギを紹介します。それが、鎮痛薬バファリンの成分としておなじみのアスピリンです。

 13万人を超える米国人を32年にわたって追跡する研究では、アスピリンを定期的に服用している人は、消化管のがんの罹患リスクが15%低下するばかりか、大腸がんに限ると19%も減少することが分かったのです。日本の研究でも、アスピリンの服用で、大腸がんの前駆病変である腺腫の再発リスクが40%減少すると報告されています。

■毎年の検便と5年に1回の内視鏡を

 こうした研究結果が相次いだことから、米予防医療サービス対策委員会は、大腸がんの予防目的で低用量アスピリンを服用することを推奨しているのです。安価で安全性も高いアスピリンで、がんを「化学予防」できれば、医療費の抑制にもつながります。

 米国の大腸がんが減った背景には、大腸内視鏡検査の普及も大きいでしょう。米国では、5年に1回くらいの頻度で大腸カメラを受けていて、早期発見・早期治療が進んでいます。大腸がんは、胃がんと同じく早期に治療できれば、ほとんど治りますから、この意識の違いは大きい。

 ただし、大腸がんを見つける検査の基本のキは便潜血検査です。古くからある検査で、採便1回あたりの大腸がん発見率は45%程度とそれほど高くありませんが、2回分でチェックするため、それだと70%に上昇。2年目(のべ4回)も受けると91%に。3年目(のべ6回)もきちんと受けると、97%までアップします。

 実は、私の近親者は48歳の若さで大腸がんで亡くなりましたが、便潜血検査を受けていませんでした。痔があり、大腸がんによる出血を痔の出血と決めつけていたのです。皆さん、便潜血検査をおろそかにしてはいけません。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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