休日の運動ではカバーできず…“座り過ぎ”のリスクと解決策

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 昨年の「スポーツの実地状況等に関する世論調査」(スポーツ庁)によると、週1日以上運動・スポーツをする成人の割合は51.5%(前年度42.5%)だという。週3日以上では26.0%(前年度19.7%)だそうな。理由は「健康のため」(75.2%)が最も多かった。それだけ体を動かさない日常生活に危機感を持っている人が多いということだろう。実際、現代人は座る時間が長くなっていて、医療関係者から「座り続ける生活は寿命の短縮につながる重大な健康リスク」という声が上がっている。

 文具、事務用品の製造販売を手掛けるコクヨ株式会社が会社員や役員など1200人を対象に「オフィスチェアー」に関するネットアンケートを行った。それによると平日に勤務している従業員や役員の「座っている時間の長い職種」は「企画・マーケティング」で平均8時間17分だという。以下「デザイナー・クリエイター」(同7時間45分)、「ITエンジニア」(7時間40分)と続く。起きている大半が座っているということだ。

■長時間座ったままだと死亡リスク上昇

 この「座り過ぎ」が寿命を縮めることは国内外のさまざまな研究が告げている。米国のコロンビア大学の研究チームによると、座ったままの作業が長時間に及ぶと、死亡リスクが高くなると報告。テレビの視聴は座り過ぎと深い関わりがあることから、テレビを見るために1時間座り続けると平均余命が22分間短くなるとの研究報告もある。「弘邦医院」(東京・江戸川区葛西)の林雅之院長が言う。

「デスクワーク中心の女性は、立ち仕事など体を動かす女性に比べて、総死亡率が32%、がん死亡率が40%も高くなるとの英国の報告もあります。座ったまま過ごす時間やその頻度が多いと、肥満や糖尿病を招き、筋肉や心臓、血管など運動器の能力が低下し、心肺機能の低下などを引き起こすからだと言われています」

 なぜ、座り続けると糖尿病のような代謝異常や心血管疾患が起こるのか? 現時点で明確な答えはないが、いくつかの有力な説がある。そのひとつが筋肉を動かすことによりインスリンとは別に血液中の糖や中性脂肪を細胞内に取り込むメカニズムが働くからというものだ。

「立つと体を支えるためにふくらはぎや太ももの筋肉が持続的に使われます。すると、血液中の糖を細胞内に取り込むための輸送体が細胞膜へと移動します。そしてある酵素と活性化して血液中の糖や中性脂肪が筋肉に取り込まれやすくするのです。それがエネルギーとして消費され、代謝が盛んになるというわけです。ところが、座ったままだと代謝を促す筋肉の収縮がおこなわれず、糖や中性脂肪タップリの血液が全身を巡りやがてドロドロになる。その結果、糖尿病や心血管疾患が増えるというわけです」(林院長)

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EDのリスクも上がる可能性

 恐ろしいのは座り過ぎリスクが、日常生活で年々高まっていることだ。

「拍車をかけているのがリモコン、携帯電話などです。かつては照明をつけるのも、お風呂を沸かすにも、電話をかけるのもそのスイッチのある場所まで行かなければなりませんでした。ところが、年々便利になっていて、体を移動させることなく、ボタンひとつで何でもできるようになり、多くの人の血液がドロドロになりやすくなっているのです」(林院長)

 実はこうした座り過ぎ生活は死亡率を高めるだけでなくED(勃起不全症候群)リスクも上げる可能性があるという。

「座る時間が長くなると糖尿病性EDになりやすいという報告があります。2型糖尿病の人を対象に自己申告による座り時間とEDとの関連を調べた研究です」(林院長)

 愛媛大学医学部の古川慎哉准教授らの研究チームは2型糖尿病の男性患者430人(平均年齢60.5歳)に、過去12カ月間の典型的な24時間に座って過ごした時間について尋ねた。その回答に基づいて、座っている時間を「5時間未満」「5~7時間」「7~9時間未満」「9時間以上」の4分類して調べた。その結果、「9時間以上」の群と「5時間未満」の群を比べると重症ED有病リスクが平均85%も高くなったという。

 心臓病や脳卒中のリスクが高まり、性生活もダメになってはたまらない。どうしたらいいのか?

「それなら、平日の座り過ぎを休日の運動でカバーすればいいのではないか? そう考える人もいるでしょう。しかし、残念ながらそれではカバーできません。座り過ぎのマイナスは睡眠不足を寝溜めで解消しようとするのと同じで、まったく意味をなさないのです」(林院長)

 解決策はとにかく立って歩くことだ。

「自分が座り過ぎていると感じている人は、会社でも自宅でも1時間に1度は必ず立ち上がり、2~5分は歩き回ることです。太ももやふくらはぎの筋肉を動かすスクワットも効果的です。さらに通勤時間帯などを利用して1日30分以上は体を動かすといいでしょう」(林院長)

 健康を保つには運動は必須ではない。便利な道具に頼らず、日頃からちょこまか体を動かして生活する。それが大切だ。

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