「軟らかいものばかり」は誤解 歯並び悪い子供が増えた訳

バランスの取れた食事を
バランスの取れた食事を(C)PIXTA

 希望の大学や高校に合格。晴れて新入生となる子供の中には、「入学祝いに歯科矯正の費用を出して」とお願いする者もいるという。新しい環境ではキレイな歯並びで過ごしたい、というわけだ。

 これに対して「学費で頭が痛いのに冗談じゃない」と舌打ちする親もいるのではないか。歯科矯正は自由診療のため歯科医院により費用はさまざま。永久歯の歯列矯正の目安は50万円以上ともいわれる。「歯並びが悪いのはお菓子など軟らかいものばかり食べて顎を発達させなかったおまえの自己責任だろう」と思わず声を張り上げたくなる気持ちはわからないではないが、その医学常識は正しくないらしい。

 厚労省の2016年の歯科患者調査によると12~20歳未満で叢生(乱杭歯)の割合は26%。4人に1人強は歯並びが悪いという計算だ。「八重洲歯科クリニック」(東京・京橋)の木村陽介院長が言う。

「歯並びが悪いことによる問題は、見た目が悪いだけではありません。虫歯や歯周病になりやすい、咀嚼率低下によりよく噛めない、発音が悪くなる、噛み合わせ不良により姿勢が悪くなる、歯ぎしりの原因になる、顎関節症になりやすいなど子供の成長や健康に関係するのです」

 よく子供の歯並びが悪い理由は「硬い物を食べる習慣がないため、歯を支える顎が発達せず小さいから」などと言われる。ところが、これは必ずしも正しくないという。むしろ一番の問題は歯が大きくなったためだ。

「動物性タンパク質などを多く取ることで永久歯が大きくなり、正常な歯列を形成できなくなるからです。かつては歯の大きさは遺伝に支配され、環境に左右されないと考えられてきました。だからこそ、顎の大きさだけの研究に関心が集中してきたのです。ところが、最近は永久歯が大きくなっていること、それが原因で叢生が増えていることが報告されているのです」(木村院長)

 実際、「歯科矯正患者」「一般の人」「正常咬合者」の歯の大きさを比べたところ、歯科矯正患者が最も大きく、正常咬合者が最も小さかったことが複数報告されている。

 歯の大きさについてはマウスなどの動物実験により、低栄養だと歯は小さくなる。

 妊娠中あるいは妊娠後に与える食餌の種類によって歯の大きさは変化する、高タンパク・高脂肪食を与えると下顎の臼歯が大きくなることなどが報告されている。

■日本人の歯は豪州先住民並み

 愛知学院大学歯学部元講師で「山田歯科クリニック」(愛知県名古屋市)の山田博之院長(歯学博士)が言う。

「実際に日本人の歯のデータを見ると、戦前と戦後では大きさがかなり違っています。上下顎中切歯から第2大臼歯までの歯の大きさ(14項目)の平均値を合計した値(TATS値)で戦前と戦後の名古屋地区住民を比較したところ、戦前(1924~1926年生まれ)は114ミリであったのが戦後(1964~1966年生まれ)は118ミリ。これは豪州の先住民・アボリジニに匹敵する大きさです」

 歯は顎の中で発育するため環境の影響を受けにくい。そのため長らく歯の大きさは変わらないと思われていたが、違っていたというわけだ。

「一方で、矯正歯科患者だけでなくその母親の歯を調べた研究では、他の母親に比べて歯が大きかったことが確認されています。つまり、歯の大きさは遺伝の影響はあるものの食べ物による変化の方が大きく、叢生に関係している可能性があります」(山田院長)

 むろん、栄養が良くなったことで戦後に成長したのは歯だけじゃない。背も体重も腕や足の長さも変わった。顎も大きくなり、顔の形も面長になり、顎もエラが張った人は少なく、顎がきゃしゃないわゆるしょうゆ顔の人が増えてきている。歯が大きくなり、従来あった歯が生える予定の場所(歯槽骨)の歯が大きくなったためその分、萌出余地は小さくなり、歯並びが悪くなったと山田院長は推測する。

「日本人の歯の大きさはアフリカ系とヨーロッパ系の人々の中間に位置し、それが顎に整然と並んでいたのです。ところが最近では、栄養が良くなるにつれて徐々に歯は大きくなってきました」(山田院長)

 健康の基本は食事。食べ盛りの子供だからといって肉などの動物性タンパク質ばかりを食べさせるのではなく、バランスの取れた食事をすることが大切だ。

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