Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

白血病は抗がん剤が効きやすい 治癒率が8割超に上る種類も

2018年のジャパンオープンでは5冠!
2018年のジャパンオープンでは5冠!(C)日刊ゲンダイ

 来年の東京五輪に向けて、ショッキングなニュースです。競泳女子日本代表の池江璃花子選手(18)が12日、白血病であることを自らのツイッターで報告。(合宿先の)オーストラリアから緊急帰国して、検査を受けた結果、「白血病」という診断が下されたといいます。

 会見した三木二郎コーチによると、「今まで見たことがない、肩で呼吸する場面があった」と語っています。練習中に体調が悪くなっていたのでしょう。4日に現地で受けた血液検査の結果が6日に出て「早く帰国して検査を受けた方がいい」と受診を勧められたそうです。

 15歳未満の小児がんでは、白血病が4割。15~19歳のハイティーンでは、白血病が24%。いずれも最多で、若い方の白血病は珍しくありません。

 白血病は、白血球になりかけの細胞が、成長過程でがん化してほかの細胞を押しのけて増殖する病気。ある一定の細胞だけががん化する「急性白血病」と、さまざまな成長過程の白血球が増殖する「慢性白血病」に分かれます。

 急性は熱やだるさなどの症状がつらく、検査の結果、診断されることがありますが、慢性は自覚症状に乏しい。健康診断を受けたり、別の病気で血液を調べたりして、判明することが多い。コーチの話や受診の状況から推察すると、池江さんの白血病は、急性なのかもしれません。

 練習中に「肩で呼吸をする」というのは、白血病による貧血だった可能性があります。白血病になると、酸素を全身に運ぶ赤血球が不足。それで貧血になることがあります。酸素供給が欠かせない競泳選手の練習中だとすれば、より息苦しさを感じるでしょう。

 さらに白血病細胞の性質によって、骨髄系の細胞の骨髄性白血病とリンパ球系のリンパ性白血病に分類されます。つまり、急性と慢性のそれぞれに骨髄性とリンパ性があり、全体では4つに大別されるのです。

 急性白血病では、成人の8割、小児の2割が急性骨髄性白血病(AML)で、成人の2割、小児の8割が急性リンパ性白血病(ALL)というのが日本の急性白血病の状況です。ALLは小児に多いのが特徴。AMLは大多数が成人で、発症年齢の中央値は60歳に上ります。

 池江さんがどのタイプか分かりません。18歳はリンパ性も骨髄性も両方の可能性が考えられますが、仮に急性だとして、さらにリンパ性なら、治る可能性が高い。急性リンパ性白血病は多くが完治するのです。

 白血病というと、一般の方は骨髄移植をイメージされるかもしれませんが、多くは、それぞれのタイプに合う抗がん剤で治療します。白血病をはじめ血液のがんは、固形がんに比べて抗がん剤がよく効きやすいのです。小児の急性リンパ性白血病に限ると、治癒率は8~9割に上り、そのうち7割近くは抗がん剤で治ります。

 治療は数カ月単位で、その間は練習ができなくなりますが、治療が終われば復帰は可能。まだ18歳。オリンピックでのメダルの可能性は、十分あるはずです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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