Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

堀ちえみさん4期舌がん 口内炎異常を確実に見抜くチェック

タレントの堀ちえみさん
タレントの堀ちえみさん(C)日刊ゲンダイ

 なんでこんなことに……。タレントの堀ちえみさん(52)が舌がんであることを公表したニュースに触れ、正直、そう思いました。

 報道やブログによると、昨年7月ごろから口内炎が断続的にできていたようで、11月9日にはそのころの口内炎の痛みのつらさからかかりつけの歯科医を受診。レーザー治療を受けたとのこと。その3日後の診察結果では、口内炎がひどいことから、仕事を一時中断されたことがブログに書かれています。

 舌がんは、歯茎にできる「歯肉がん」、舌の裏側に接する部分(口腔底)の中心部に発症する「口腔底がん」、頬の内側の粘膜に生じる「頬粘膜がん」などとともに口腔がんの一種で、全体の6割近くで、最も多い口腔がんです。

 実は堀さんのように口内炎と放置され、がんが進行してから発見されるケースが少なくありません。堀さんの舌がんは左首のリンパ節に転移したステージ4でした。

 堀さんは、特発性急性すい炎や特発性大腿骨頭壊死症を克服された後、リウマチの治療を受けています。抗リウマチ薬のメトトレキサートには、副作用のひとつに口内炎があり、日本リウマチ学会作成の薬のパンフレットにもそのことが記載されています。ブログには「リウマチの薬の副作用なので、仕方がないです」とありますから、その刷り込みで舌がんの診断が遅れた可能性は否定できないでしょう。

 舌がんのリスク要因として、たばこと酒のほか入れ歯も要注意。不安定な入れ歯による断続的な刺激が舌がんを招く恐れがあるのです。

 早期がんでの部分切除なら、術後のしゃべりにくさや食べにくさがあっても、体の負担は少ないのですが、今回のケースのような大掛かりな手術だと、生活の質は大きく損なわれるでしょう。歌を歌うのはしばらく難しいかもしれません。

 生活の質を損なうことなく治療できるのが、放射線療法の小線源療法です。

 舌に放射線を出す針を刺したり、放射線を出す金粒子を患部に埋め込んだりする治療法で、治癒率は手術と同等の8~9割。会話や食事は、生活の質に直結します。その機能を維持して、この治療成績は注目です。

 しかし、切らずに治療できる小線源療法も、リンパ節転移がない早期が対象。口内炎を放置するのはよくありません。そこでチェックポイントをご紹介します。

●2週間以上続く口内炎

 口内炎はせいぜい10日ほどで治ります。2週間以上持続するときは、別の病気の可能性が高いでしょう。

●舌や歯茎に白斑がある

 白斑は、口腔がんの一歩手前の状態。この段階なら問題ありませんが、赤斑が交ざるとがんが疑われる前がん状態。赤斑は50%ががん化する恐れがあります。

 こうした異常があるときはすぐに耳鼻咽喉科か口腔外科を受診するのがベター。

 さらに定期的な歯科検診では、歯科医や歯科衛生士に「がんのチェックで、舌を触診してください」とお願いすることです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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