人生100年時代を支える注目医療

世界中どこからでも手術支援が 5G遠隔高度医療の最新事情

「モバイルSCOT」のイメージ模型(右上)、「MWC19バルセロナ」の展示(右下)(左は村垣善浩教授)
「モバイルSCOT」のイメージ模型(右上)、「MWC19バルセロナ」の展示(右下)(左は村垣善浩教授)/(提供写真)

 次世代移動通信システム(5G)を使った医療分野での研究開発が進められている。5Gの主な特徴は「超高速」「超大容量」「超大量接続」「超低遅延」。現在の最新モデルの4Gと比べると通信速度は10~100倍速く、最大毎秒20ギガ(ギガは10億)ビット、通信の遅れはわずか1ミリ秒とされる。あらゆるモノがネットワークでつながる「IoT」の普及には欠かせない通信インフラ技術だ。

 医療で、すでにいくつか実証実験が行われているのは「遠隔医療」への活用。5Gを用いると何が大きく変わるのか。NTTドコモと共同で遠隔高度医療システムの開発を進めている、東京女子医科大学先端生命医科学研究所の村垣善浩教授(顔写真)が言う。

「4Kカメラで撮影された手術中の映像などが5Gで転送されれば、遠隔地のモニターで見ていても“色み”まで自然に近く、非常に鮮明な画質で見ることができます。それに送信される情報のタイムラグ(ズレ)もほとんどなくなると思います。たとえば専門医が離れた場所にいても、現場にいるのと同じような空間を超えた治療の判断決定や支援ができるのです」

 NTTドコモでは2020年に国内の5Gの商用サービス開始を予定している。このインフラが整えば、将来的には手術支援ロボットやAI(人工知能)を組み合わせた遠隔医療が実施できる可能性があるという。

■移動式スマート手術室の開発も進行中

 村垣教授らが実際に進めているのは、スマート治療室を移動式にした「モバイルSCOT(スコット)」の開発だ。スマート治療室とは、手術で使う各種の医療機器をパッケージ化し、ネットワークでつなぐことで、術中の患者の状況などの情報をリアルタイムに整理統合し、医師やスタッフ間で共有できる手術室のこと。同大が開発したスマート治療室は「SCOT」と呼ばれ、ベーシックタイプはすでに国内5施設の医療機関に導入され治療に使われている。

 今年2月にスペインで開催された世界最大級のモバイル関連展示会「MWC19バルセロナ」で、NTTドコモが5Gコーナーで展示したひとつがモバイルSCOTの構想だ。

「これはSCOTを大型トレーラー内に設置した専用車で、災害現場などへ急行できるようにした動くスマート治療室です。それで展示では、その手術に精通するドクターが高速鉄道で移動中という想定で、車内から5Gを使った遠隔医療用の端末で実際にモバイルSCOT内で手術をしている医師やスタッフにリアルタイムで助言や支援をするといったことを表して展示しました」

 SCOT自体は手術室内のすべての情報が一元化されてつながっているので、そこに5Gの通信技術が加われば熟練の専門医はどこにいようと手術現場に立ち会える。医療に5Gの活用が普及することは、診療を受ける患者側と診療をする医療者側のいる場所を問わなくなることにつながっていくという。

 また、NTTドコモは和歌山県、県立医科大と遠隔診療の実証実験を行っている。実際に患者宅を訪問するのは地域の医師だが、5Gでつないで同大学の専門医も参加する。前橋市や前橋赤十字病院とは5Gを用いた救急搬送の実証実験を行っている。救急車やドクターから心電図やエコー、高精細カメラ映像などの情報を病院へ送信し、それを確認しながら隊員らに指示を出すといった試みだ。5Gをうまく活用すれば、医療の均てん化やスピード化が進む。来年からの実用開始に期待したい。

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