耳鳴りめまい難聴…聴神経腫瘍かも

たとえ聴神経腫瘍が小さくても10~40代の患者は手術が必要

一生涯つきあっていく…
一生涯つきあっていく…(C)PIXTA

 聴神経腫瘍の治療には、手術のほかに、経過観察と放射線治療があります。聴神経腫瘍の手術を年間約100件、累積で1300件手掛けている私ですが、「何が何でも手術」と思っているわけではありません。

 小さい腫瘍であれば、年齢を考慮しつつ、経過観察や放射線治療を提案することも多くあります。

 60代以上で、進行スピードも速くなく、脳幹の圧迫などが見られない場合は、手術は最後の選択肢と考えています。

 なぜなら、手術そのものが体に負担をかけますし、聴神経腫瘍の手術は非常に難しく、顔面神経麻痺(まひ)や聴力喪失などの合併症も起こり得るからです。

 では、手術をすべきだと考える患者さんはどういう人か?

 これは私の中で決まっていて、まず、腫瘍が大きく、脳幹を圧迫して命を脅かされている人。次に、腫瘍は小さいけれど10~40代の若い人で、聴力が残っており、腫瘍の成長速度が速く、患者さんが手術のメリットを理解している場合です。

 外来を受診される聴神経腫瘍の患者さんのうち、だいたい10人中3人が手術、7人が経過観察か放射線治療……というところでしょうか。

 最近は、手術と放射線治療の併用療法も行われるようになりました。最初に手術で腫瘍のボリュームを減らしておき、そして放射線治療を行います。

「腫瘍の摘出度が低いため、顔面神経麻痺や聴力喪失のリスクを減らす」というのが手術と放射線治療を併用する理由ですが、私は若い患者さんには積極的には行っていません。なぜなら、まず長期成績がないこと、また腫瘍は消えることはなく、一生涯、腫瘍とつきあっていくことが前提の治療ですので、根治性を要求される若い患者さんには適合しないと考えているからです。

 どの治療が、その患者さんにとって最も良いかという選択をするには、これまでの手術の経験数がモノを言います。次回は、それについて具体的にお話ししましょう。

河野道宏

河野道宏

東京医科大学病院脳神経外科主任教授。聴神経腫瘍・小脳橋角部腫瘍・頭蓋底髄膜腫手術のエキスパート。

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