2日以上続くなら要注意…長引く「しゃっくり」に潜む病気

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 冷たい飲み物や食べ物が欲しくなる夏は「しゃっくり」が出やすい季節だ。胃腸などへの刺激がしゃっくりを招くからだ。すぐにおさまる場合は気にする必要はないが、2日以上続くしゃっくりは要注意。病気や薬の副作用が隠れている可能性がある。「弘邦医院」(東京・葛西)の林雅之院長に話を聞いた。

「しゃっくりは胸とお腹を仕切って、呼吸する際に収縮して息を吸い込めるように働く横隔膜がけいれんすることで起きます。しゃっくりに関係する神経経路が刺激を受けた結果、脳の延髄という場所から横隔膜などに向けて筋肉を縮ませる信号が出るからです」

 しゃっくりで“ヒック”という独特な音を発するのは、横隔膜が収縮して肺に急に空気が入ると同時に声帯が素早く閉じるためだ。

 しゃっくりを引き起こす刺激となるのは、早食いや過食、炭酸飲料水など急激に胃を膨らませた場合、冷たい食べ物や熱い食べ物など胃の急激な温度変化が出た場合、お酒や辛い物を食べるなど、胃に刺激を与えたときなど。

「胃には脳に直接つながっている迷走神経が多く通っているからです。ほかにも喫煙や興奮や心理的ストレスもしゃっくりにつながる刺激となります。ただ、こうしたしゃっくりのほとんどは、数時間もすれば自然におさまります」

 問題は、しゃっくりの中に何日、何週間、何年も続く“止まらないしゃっくり”があることだ。実際、ギネス世界記録には68年間もしゃっくりが止まらなかった米国人が紹介されている。

「2日間(48時間)以上続くしゃっくりを難治性吃逆と言います。長く止まらないしゃっくりは横隔神経の走行部位に炎症や腫瘍があって、それらが横隔神経を刺激して、しゃっくりが止まらなくなっている可能性があります。肺、胃、食道、膵臓など横隔膜周辺の臓器の炎症、腫瘍などの存在をまず疑わなければなりません。脳内の異常の可能性もありますので、しゃっくりとともに不規則な胸部痛、頭痛や吐き気がある場合は脳卒中などの脳の病変を疑う必要があります」

 都内に住む中村義弘さん(仮名、62歳)は昨年夏、止まらないしゃっくりに悩まされた。

 最初は妻も「子供みたい」と笑っていたが、止まってもすぐに再開することに不安を感じたという。

 中村さんは昔からしゃっくりを止めるのに効果があるといわれる「冷たい水を飲む」「ご飯をのみ込む」「背中を叩く」などの方法をひと通り試したが一向におさまらない。さすがに心配になって病院へ駆け込んだところ、CT検査などで脳梗塞が見つかった。

「最初は何のことか分からなかったのですが、長期間しゃっくりが続くのは、しゃっくりを引き起こす神経が継続的に刺激され続けているのだそうですね。しゃっくりが脳梗塞を含めた脳卒中の早期危険信号だなんて知りませんでした。私の場合は脳の動脈の閉塞によって引き起こされたもののようです」(中村さん)

■薬の副作用が原因になるケースも

「長引くしゃっくり」を招く病気は他にもある。

 逆流性食道炎や風邪で喉が腫れて炎症を起こしたときなどだ。

「食道がん、胃がん、膵がん、心筋梗塞、狭心症、心膜炎、肺がん気管支炎、神経ベーチェット病、播種性転移性脳腫瘍、脳血管障害、髄膜炎、てんかん、多発性硬化症、大動脈瘤、糖尿病なども止まらないしゃっくりを招く病気です。長期のしゃっくりは、うつ病、食欲不振、睡眠障害、体重減少、栄養障害などを繰り返す。多くの人は“しゃっくりなんて大したことない”と思いがちですが、長引くしゃっくりには気をつけなければなりません」

 薬の服用が原因で起きるケースもある。

「頻度は高くありませんが、気管支拡張剤や血圧降下剤、ステロイド剤の一部など身近な薬でしゃっくりを起こすことが知られています。また、しゃっくりを誘発する代表的な薬に抗がん剤の白金製剤に分類されるシスプラチンがあります。この薬は肺がんや肉腫などのがんに用いられます」

 しゃっくりで死ぬことはないが、体力を消耗し、日常会話や仕事などに支障が出るため早く止めたいという人は多いはずだ。

「民間療法はいろいろありますが“息を止める”がいいかもしれません。血中の二酸化炭素濃度が上がると脳神経の興奮が抑制され、しゃっくりがおさまりやすいことが知られています」

 だからといって一般の人が紙袋を口に当てて呼吸したり、直接二酸化炭素ガスを吸ったりするのは危険があるという。

 長引くしゃっくりは、医療機関で診てもらうのが一番。西洋薬や漢方薬の中にしゃっくりに効果がある薬があるという。

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