乳がんで亡くなる人が減るかもしれません。日本乳癌学会などは、遺伝性乳がんの予防切除を保険診療の対象にするように求めていて、厚労省も検討を始める方針なのです。
日本遺伝性乳癌卵巣癌総合診療制度機構の調査によると、2015年9月から16年8月までの1年間に乳がんの遺伝子検査を受けたのは1527人。そのうち、297人に遺伝子変異があり、49人が将来のがん化を見越して、がんのない方の乳房の乳腺を予防的に切除する手術を受けていたといいます。遺伝子変異のある人の6人に1人の計算です。
乳がんは、毎年約9万5000人が新たに発症していて、女性のがんで最多。乳がんの遺伝に関係するのは、「BRCA1」「BRCA2」の遺伝子で、それらに変異があるのは全体の3~5%と、全体から見ればわずかです。そんな遺伝性乳がんが世界的に注目されたのが、米女優アンジェリーナ・ジョリーさんの予防切除でしょう。
ジョリーさんの場合、「BRCA1」に変異があったといいます。この変異による乳がんの生涯発症リスクは40~80%。「BRCA2」の生涯発症リスクは20~85%。100%ではないとはいえ、高率であるがゆえ、乳がん発症前に両方の乳房を予防切除しています。
これらの遺伝子に変異があると、乳がんのほか、卵巣がんを患うリスクも高い。ジョリーさんの母も叔母も、若くして乳がんや卵巣がんで亡くなっているのです。
こうした影響から、日本乳癌学会は昨年、遺伝子変異がある人について、乳がんのリスクを減らすため、乳房予防切除を「強く推奨する」と指針を改定しています。今のところ、遺伝子検査も予防切除も自費で、検査は20万~30万円、手術は切除と再建費用を含めると100万~200万円と安くはありません。それが保険で受けられるようになれば、予防切除は普及するでしょう。
問題は、予防切除が医学的な意味だけでなく、家族への影響も計り知れないことです。若い方だと、妊娠や出産との兼ね合いもあり、変異があるからといって、すぐに手術には踏み切れないでしょう。それだけに、まず遺伝子検査は、カウンセラーがいて、支援体制が整った医療機関で受けることが一番です。
その上で変異が見つかったときにどうするか。例えば、乳がんを発症しておらず、将来の出産を希望するなら、乳房については乳房MRIでチェックし、卵巣については経膣超音波検査と腫瘍マーカーのCA125の測定です。
すでに乳がんを発症していれば、反対側の予防切除が検討されます。同時に卵巣の精密検査が重要で、出産を希望しなければ卵巣の予防切除が勧められますが、希望する場合はケース・バイ・ケースになります。
救命という点で予防切除は重要な選択肢の一つですが、家族の形を考えると、杓子定規に適用できません。慎重な対応が必要です。