厚労省の発表(2018年)によると、介護を必要としている心身の不自由者は約400万人に近い。まさに、社会問題と化している。
歌手歴50年という安倍里葎子さん(70)も、母親を介護して6年の歳月が流れた。ファンに囲まれながらスポットライトを浴びるという華やかな職業の歌手に、老人介護という言葉が不似合いにも感じる。でも、これが現実なのだ。
「若い時代、老人介護などは他人の話と思い、予測もしていなかったことでしたね」
食事、入浴、着替え、トイレ、就寝の介護。息つく暇もない。コンサートやディナーショーの歌手活動を減らしながらも、母親の介護に汗を流してきた。
しかし、その介護も1年が限界だった。
「このままでは共倒れになってしまう」と、区役所に相談し、自宅でケアマネジャーによる世話をお願いした。しかし、歌手活動は都市に限らず、地方での公演も多い。2、3日自宅を空けるときは、母親に付き添っていられなくなる。
ケアマネジャーのアドバイスで、「小規模多機能型居宅介護施設」(1割負担、本人の選択で通い、宿泊が自由な施設)を利用することにした。それでも、仕事の都合で、送迎時間の折り合いがつかないことが多かった。
「4年前から自宅と同じ区内の別の施設のお世話になるようにしました。でも、私が仕事が休みのときは、母親をホームから連れて帰り、自宅で一緒に暮らすようにしています」
ホームの利用頻度は、月に3分の2。3分の1は自宅で介護している。
自宅での介護は、レンジやポットでやけどをしないように気を使う。
トイレの時間にしても、常に母親の顔色をうかがってきた。
「私を見守ってくれてきた大切な母親ですから、手抜きをしたくありません。でも、正直、ストレスがたまりますね。そんなとき会話を楽しむ相手もいないし、もうエイ! とお酒を飲んでしまいます」
安倍さんは思い詰めてしまうタイプだそうで、そんな性格を熟知している本人は、「介護で精神が追い詰められたら、私自身もダメになってしまいます。ですから、緊張している気持ちを少し変えようかなと思い始めるようになりました」。
母親の介護を始めてからはや6年。
「無責任と思われるかもしれませんが、あまり無理することなく、力を抜けるところは抜いて、母親と二人三脚、前向きに生きたいと思っています」と語る。
安倍里葎子「私も介護仲間です」