病気を近づけない体のメンテナンス

【耳】耳かきの回数が少ないからアカがたまるは大ウソ

間違った耳かきで外耳を傷つけないこと
間違った耳かきで外耳を傷つけないこと(C)日刊ゲンダイ

 水泳のシーズン。プールや海で泳ぐ前に、ツバを指で耳穴に入れてから泳ぐ人はいないだろうか。

 実際、自分も子供のころに泳ぐ前には必ずやっていた。ツバが膜となって耳穴への水の浸入を防ぐ(耳栓の代わり)という考えで、誰ともなく周囲の子供たちもみんなやっていた行為だ。しかし、大人になって耳の構造をよく知ると、全く無意味だったことに気付かされた。

 このような水泳前の無意味な習慣が広まったのも、「耳に水が入ると中耳炎になる」という誤解があるからだ。

 耳の入り口から鼓膜までが「外耳」で、その奥に「中耳」がある。外耳と中耳は鼓膜で閉ざされているので、水泳をして中耳に水が入ることはない。耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック(東京都中央区)の大河原大次院長が言う。

「いまだに大人でも誤解している人が多くいます。昭和初期の認識が誤って伝わっているのです。昔は鼻が悪くて鼻汁を垂らしている子供がたくさんいました。そのような状態だと、中耳と鼻を通じている耳管に細菌が入り込んで中耳炎を起こしやすくなります。急性中耳炎を繰り返すと、慢性中耳炎に移行して鼓膜に穴が開いた状態になります。そういう子供たちが水泳で中耳に水が入り、急性中耳炎を起こしていたのです」

 昔は慢性中耳炎の子供がたくさんいたが、聞こえは悪くなるが痛みはないので、医者にかかる子も少なかったという。いつの間にか「鼓膜に穴の開いた人の……」という部分が省略されて、「耳に水が入ると中耳炎になる」という言葉だけが独り歩きしてしまったわけだ。

 ただし、間接的に水泳が中耳炎のキッカケになることはある。プールの水が鼻の奥に入り込んで炎症を起こし、そこから細菌が耳管を通じて中耳に入ったような場合だ。耳の入り口から鼓膜までの外耳道は体の表面の皮膚と同じなので、水が入っても何ら問題はなく、濡れても数分すれば乾いてしまうという。

 耳穴に水が詰まって聞こえが「ボワーン」としたときは、詰まった耳を下にして片足ケンケンすれば大概取れる。あとは耳の外側を拭くだけ。綿棒や丸めたティッシュで耳の中をグリグリやると、外耳を傷つけ外耳炎の原因になるので、やってはいけない。翌日も耳閉感が残るようなら受診しよう。

■綿棒はよくない

 東京逓信病院・耳鼻咽喉科(東京都千代田区)の八木昌人部長が言う。

「耳アカがたまっている人で、お風呂や水泳の後に聞こえが悪くなって、突発性難聴ではないかと思って受診する人が時々います。耳アカが水で膨張して詰まってしまうのです。このような人の多くは、耳かきの頻度が少ないから耳アカがたまるのではなく、むしろ逆。やり方の悪い耳かきを頻繁にやって、耳アカを耳の奥に押し込んでしまっているのです」

 外耳道は約3センチあり、耳の入り口に近い方の軟骨部と鼓膜に近い方の骨部に分かれている。軟骨部は皮下組織が厚く、耳毛、耳垢腺、皮脂腺などがある。骨部は骨の上に皮膚が覆っている構造で、とても敏感で、傷つきやすい特徴がある。

 外耳道の皮膚の細胞は、鼓膜の方から耳の入り口に向かってゆっくり移動している。そして、入り口から1センチくらいのところへ来ると、細胞がはがれ、耳垢腺から出る分泌物やホコリなどと混じり合ってできるのが耳アカだ。この皮膚の代謝サイクルの期間は1カ月くらい。自然に外に排出されるので、頻繁に耳掃除をする必要はないのだ。それでも、耳かきしたい場合は、どのような器具を使うのがいいのか。

「金属製は傷つきやすいのでお勧めできません。選ぶなら弾力性のある竹製のものです。綿棒は耳アカを押し込んでしまいますし、固く巻いているのでよくありません。耳かきは、やっても月1回くらい。耳の入り口付近を軽くかく程度で十分です」(大河原院長)

 耳かきが気持ちいいのは、耳穴に快感を生じさせる迷走神経が走っているから。だからといってクセのように習慣にすると、外耳道の傷から細菌感染して外耳炎を引き起こす。水泳で注意するのは、中耳炎ではなく、過度な耳かきによる外耳炎の方なのだ。

「耳がかゆいから耳かきをする、では悪循環です。かゆい、痛い、水っぽい液が出るなどは病気のサインです。直ちに耳かきをやめて、3日経っても続くようなら受診した方がいいでしょう」(八木部長)

 耳アカは弱酸性で、殺菌や防虫の役割があることも知っておこう。

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