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【耳】ヘッドホン難聴に要注意 11億人の若者に難聴リスク

外部の音が聞こえる程度ならOK
外部の音が聞こえる程度ならOK(C)日刊ゲンダイ

 WHO(世界保健機関)は世界の若者(12~35歳)の約半数にあたる11億人に「難聴」リスクがあると指摘している。スマートフォンや携帯音楽プレーヤーの急速な普及により、大音量で音楽を聴く若者の増加を懸念してのことだ。

■ダメになった有毛細胞は修復しない

 大きな音を聴いたことが原因で起こる難聴を「音響外傷」という。難聴には大きく分けて、伝音難聴と感音難聴がある。耳穴から入った音は鼓膜に当たり、その音の振動は、鼓膜の後ろ(中耳)にある耳小骨に伝わる。ここまでの音が物理的に伝わる部分の障害で起こるものを伝音難聴という。感音難聴の方は、物理的に伝わった音が内耳に伝わり、神経の信号に変換されて脳へ伝わる過程の障害で起こる。音響外傷は感音難聴のひとつだ。

 では、大音量によって内耳のどの部分が障害されるのか。東京逓信病院・耳鼻咽喉科(東京都千代田区)の八木昌人部長が言う。

「耳小骨から内耳に伝えられた音は、今度は蝸牛という器官に伝わります。蝸牛はカタツムリのような形をしていて、内部には音を感知する有毛細胞がびっしりと並んでいます。有毛細胞の一つ一つは特定の音にしか反応しないようになっていて、蝸牛の入り口の方から高い音を感知する細胞、奥に行くほど低い音を感知する細胞と、決められた順番通りに並んでいます。そして、感知された音は電気信号に変換され、聴神経を経て大脳へ送られます。音響外傷は、大音量によって有毛細胞が障害されてしまうのです」

 ロックコンサートやクラブなどで耳が痛いと感じるほどの大音量を聴いた後、「ツーン」という耳鳴りとともに聞こえが悪くなった経験をしたことがある人は多いはず。これも一過性の音響外傷だが、難聴の程度が軽ければ、時間が経てば有毛細胞は修復されて元に戻る。しかし、やっかいなことに、一度障害されてダメになった有毛細胞は、いまの医学では治すことができない。聞こえの悪さや、耳鳴りが一生残ってしまうという。

「コンサートなどのイベントに出掛けるときは、音を軽減させるスポンジ製などの耳栓を持っていくのがいいでしょう。耳が痛いと感じたら、難聴になる危険信号です。その後、翌日になっても耳の痛みや耳鳴り、耳閉感などの症状が続いているようなら受診するべきです」(八木部長)

 ただし、明らかな大音量でなくても音響外傷を起こすこともある。それがWHOが懸念しているスマートフォンなどの携帯機器でヘッドホンやイヤホンを介して起こる音響外傷。いわゆる「ヘッドホン難聴」だ。耳鼻咽喉科・日本橋大河原クリニック(東京都中央区)の大河原大次院長がこう警告する。

「毎日のようにヘッドホンやイヤホンで大きめの音を長時間聴いていると、蝸牛の有毛細胞が、徐々に傷つけられていきます。また、耳に密着させているので、通常は空気に伝わる過程で弱まるはずの音の周波数が高いまま直接耳に伝わり、思っている以上に、内耳にダメージを与えているのです」

■外部の音が聞こえる程度ならOK

 周囲がうるさい電車内や人混みで聴くことが多いので、無意識のうちにボリュームが大きくなりやすい。今年、WHOと国際電気通信連合は共同で、安全利用の目安を「大人で音量80デシベル、子供で75デシベルを1週間に40時間まで」とし、国際基準として公表した。そして、機器にどの程度の音量をどれくらい聴いたかを明示する機能を付けるべきだとしている。

 80デシベルといえば、「走行中の電車内」「救急車のサイレン」「パチンコ店内」と同等の騒音の大きさとされている。しかし、現状では自分がどれくらいの音量で聴いているのか、おそらく見当がつかないだろう。では、どんなことを心掛ければいいのか。

「音量の目安は、ヘッドホンやイヤホンを着けても、外部の会話が聞こえる程度に調整することです。そして、連続して聴いている時間は、1時間半を超えないことが大切です。1時間ほど聴いたらヘッドホンを外して、最低5分程度は耳を休ませてください。また、周囲への音漏れの問題はありますが、耳穴を強めに圧迫するタイプのイヤホンは避けた方が安全です」(大河原院長)

 大音量でなくても耳鳴りや耳閉感があれば、難聴を疑い、受診。

 内耳へのダメージの蓄積は、加齢で起こる老人性難聴の発症を早めることになるので注意しておこう。

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